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0.はじまり

『通信記録』

航空協会歴212年 中間期 3日

貨客島 Æ

0930 空賊接近あり。進路を北東高にとり、迂回により回避する。



航空協会歴212年 中間期 8日

貨客島 Æ

1310 再度空賊接近あり。進路を北東高にとり、回避する。

航路を外れ、スケジュール二日の遅延予定。遅延分の吸収は可能か?



航空協会歴212年 中間期 11日

貨客島 Æ

0710 空賊の追撃が執拗に続く。航路を大きく外れ三日経つ。

敵目標は積荷の模様。救援または積荷の回収求む。

物資心許なし。食料補給希望。



(以降連絡無し)



 ***


 雪は好きだ。雪が降る日は何か特別なことが起きる気がするのだ。


 その日は雪が降っていたことを覚えている。

 首都圏には珍しい大雪が深々と降り積もっていくのを自室の窓から眺めて、深夜だというのに出歩いてみたくなったのだ。

 自室に籠って延々と続けていた勉強(さぎょう)の気分転換でもあった。

 居間にいた両親に一声かけると、ついでに保存食を買ってくるよう言われた。

 積雪は数日程残るようで、重いものは早めに買っておきたいようだった。

 便乗した兄貴や妹の注文にも適当に応えて外に出た瞬間、あまりの寒さに震えたが、受けた注文は取り消せない。

 早めに散歩を終わらせようと一直線にコンビニへと向かったのだった。


 俺は「永洞 大地(エドウ タイチ)」。僅かに生えている赤毛が悩みの種なだけの、普通の15歳だった。


 ***


 大荷物を抱えた、コンビニからの帰り道。

 ふと空を見上げると、暗灰色の空から雪がゆっくりと降りてきて、それがとても美しくて、何だか空に吸い込まれていくような錯覚を覚えた。

 一説に、人間が空を見上げるとき、吸い込まれるような印象を受けるのは頭部が傾き重心が変化することによる錯覚に過ぎないらしい。だから――


 ――この時、自分の両足が浮き上がった時、俺がどんなに驚いたかは誰にも理解してもらえないだろう。

 かかとが浮き上がり、ギョッとした。

 少しずつ離れていく地面に驚き、道路のアスファルトに全力でつま先を伸ばす。

 誰かがその様子を見ていたら、きっと凄く滑稽だっただろう。

 両手でダンボールを抱え、買い物袋を下げて直立したままの体勢で、まるで重力が反転したかのように、俺は深々と雪の降る曇り空へと落ちて行ったのだった。


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