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生き血を啜る敵②

 大理石で作られた壁を越えることはできない。俺のもう一つの記憶がそう告げている。

 カイゼル所長によれば、じきに空間転送機で兵器を運んできてくれるとのことだが……。

 ミーアが隣に立ち、書類に目を通しながら報告する。


「全員集まりました」


「そうか。ペルセウス様に連絡は?」


「済ませました。号令を」


 全く、こいつらは。

 武器も手に持たず戦いに行くだと? 何を考えているんだ。……とはいえ、敵はたかがスコール2。自惚れているのではない。

 実際に兵器があれば随分と楽ではあるだろうが、格闘術でどうにかできるレベルでもある。問題はと言えば、数だ。


「観測結果を出せ」


「はっ! 平均スコール2の奴らが7245体います!」


「多過ぎだろ……」


 これだけ残っているとは。リステリア様に駆除してもらう方法が取れないことがもどかしい。


「スツェル隊長! 兵器が届きました! 奴らさすがとしか言えませんね。こんなもの作ってますよ」


 部下の1人であるレントレットが兵器を見せる。はたして兵器と言っていいのか……それは指輪の形をしていた。


「どうやって使えばいい?」


「これまで通りで、何も問題はないそうです。それから、ピルロ様とヒグツチ様も来られるそうで」


「あいつらも来るのか……? 過剰戦力だろう、どう考えても」


 ピルロとヒグツチが来たら、こいつらの仕事がなくなるかもしれんな。


「お前ら、よく聞け! あの2人が来たら俺たちの仕事がなくなっちまう!! 指輪を確認したらすぐに戦場に向かえ!!」


『はっ!!』


 俺も一つ、指輪を手に取る。

 念のために説明書を読んで見たが、魔力の波長を読んでいたものが脳の波長を読むものに変わっているだけで、特にこれといって変わったところはない。

 ただ、科学の力でこの指輪が兵器にどう変わるのか……。


「ミーア、後方は任せる」


「お任せください」


 副隊長であるミーアに後方を、大理石で作られた門の守備を任せ、俺たち前線戦闘部隊は門の外へ飛び出て行く。

 元々の記憶では相当手こずっていたようではあるが、俺たちの経験があれば何も問題はない。


「行くぞ!!」


 号令をかけて気づく。周囲ではすでに戦い始めている者が多く、俺の話は誰も聞いていなかった。


 指輪に魔力を流そうとして、魔力がないことを思い出す。

 だが、そんなことは御構い無しに指輪が起動した。何を読み取ったのかは知らないが、これが脳の波長を読む、ということだろうか?

 指輪は俺の慣れ親しんだ形に変形していく。以前のように鎧は出ないが、それは仕方ないことだ。

 無から有は生み出せない。

 カイゼル所長の力を持ってしても、それは出来なかったと考えるべきか。


「……行くか」


 愛剣を持ち強化されない肉体を、おぼつきながら動かして敵を屠っていく。

 一体、また一体と少しずつ減っていく敵。

 終わりは見えない。


「隊長! 回転式に変更してはいかがでしょうか!」


 後方で全体を見つつ、回り込む敵がいないか見張っていたミーアが叫んだ。

 回転式とは、第1列、第2列、第3列の3部隊に分かれての波状攻撃のようなものだ。

 そうすれば、戦闘を長く続けられる。その分、一つ一つの隊にかかる負担は大きくなるが……こいつらであれば問題なさそうだ。


「第2、第3列は下がれ! 第1列のみ戦闘を継続しながら徐々に戦線を後退せよ!」


『はっ!!』


 予め隊列は決まっている。

 あとは指示を出すだけだったのだ。


「あまり前に出過ぎるなよ! 徐々に下がるんだ!」


「わかってます!」


 俺は第1列なため、最前線だ。ミーアは第2、第3列の指揮をとるため、第1列と後退してからは長い。

 彼女は基本戦わず指揮に没頭するが、長時間の集中はあちらの方が消耗は激しいだろう。



 戦闘が始まってから29時間が経過した。

 その間に仕留めた敵の数は2000にも及ぶが、全体数を見ればまだ半分以上残っている。

 魔力があればすぐにでも殲滅できる強さなのだが……そう簡単には行かないようだ。

 そんなとき、通信機が何事かを受信する。比較的近くにいたレントレットが通信機の下へ走った。


「スツェル隊長! 研究所から通信です!」


「この忙しいときに何の用だ!?」


「大量殲滅兵器が完成したとのこと! 天の裁き(アブサーヴァ)だそうです!」


天の裁き(アブサーヴァ)ぁ? トチ狂ったのか、あいつらは!」


 天の裁きはペルセウス殿だ! 研究所の奴らは何を言っている?


「それが、ペルセウス殿が天の裁きを持ってくるそうです!」


「全くわからん! 詳しい説明を求めろ!」


「兵器が到着してからのお楽しみだと……」


「もういい! お前も戦闘に戻れ!」


「は、はっ!」


 天の裁き(アブサーヴァ)を持ってくるとはどういうことかわからないが、少なくともあの狂人どもが作った代物だ。

 奴らを殲滅するための兵器だということに、嘘偽りはないだろう。

 その点では安心して信頼できることが腹立たしい。


「隊長! ペルセウス殿が来られました!」


「第1列、防御陣形を取れ! できるだけ敵を密集させろ!」


『はっ!』


 一点集中型か広範囲型かはわからないが、どちらにせよ纏めておくに越したことはない。

 ペルセウス殿の方を見ると、多くの民を率いて巨大な機械を運んでいた。


「なんだ……あれは」


 見たことがない。あれほど巨大なものは。よくこの短期間に作り上げたものだ、と。


「スツェル殿、準備まであと半刻ほどかかる」


「承知しました! ……総員、半刻持ちこたえろ!」



 もうじきに半刻が経つ――そう思ってペルセウス殿を見れば、軽く頷いた。


「総員退避! 巻き込まれるぞ!」


 天の裁き(アブサーヴァ)の力、見せてもらうぞ。


「エネルギー充填100%! 発射まで3.2.1……撃てぇ!!」


 ペルセウス殿が大きな声を出し、機械が大きく震え出す。奇妙な音が、キュィィィインという音があたり一帯に響き渡った。

 刹那――リステリア様より教わった列車というものに似た形状をしている筒の先から、数十本もの雷が迸る。

 銃にも、列車にも似ている。

 リステリア様より得た知識なのか?

 カイゼル所長はずっとこれを隠し持っていたのか……。


「これがあれば、前回の戦いも随分と楽だったろうに」


 嘆いても、いまが変わりはしない。

 雷が放たれ、一方的に敵を蹂躙し始める。

 敵に衝突するたびに雷の本数が増えていき、あっという間に9割近くもの敵を殲滅した。


「すげぇ……」


 部下たちが各々声を漏らす。


「第1、第2、第3列! 総攻撃開始!!」


 あと数百。今日中に敵を全て屠れる。

 ようやく訪れそうな平和に、思わず頬が緩んだ。

※レールガンではありません。

作者が適当に考えたものです。

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