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奥の細道

作者: 鍵尾加子

ロッカーで私はあなたを見ていた。

ロッカーの上部に空いた細い隙間から、私はあなたを見ている。

隣にいる誰かと口論しているあなたの真っ赤な顔しか見えない。


「ため息なんかついたって、仕方がないんだ!」


君と一緒にいられないのは知ってるだろう。



あなたはゆっくりとロッカーから遠ざかっていく。

白い肌がぬるぬると光っている。

汗か、なんだか妖しい汁か。


汗と汁なんて、

棒一本でしか変わりがないんだ。汁に何を足したら、汗になるんだろう。


塩分か、男の体液か。


私にはわからないけれど、覗き続けている間に

あなたは隣の男とその白い肌を合わせている。


白い肌を、隣の男の黒い毛が侵すように生やされているように見える。

あなたの筋肉質なお尻の、へっこんだ部分に、隣の男の黒い毛が一本、

取り残されてしまった。


あなたのお尻が汚く見えて、背筋がぞくりと粟立った。

お尻は真っ白いのに、裸の胸は桃色に染まっている。

隣の男が残したひっかき傷は、一際朱く筋になっている。


昨日あなたのものを口に含んだ時に気づかない振りをした、

太ももにうっすら滲んでいた三本線と同じ色。


やっぱりあなたを満たせていなかった。

抱かれる役割と抱く役割が、生まれ落ちた体の形から決まってしまっているから。

その定めに従ったのでは、あなたはやっぱり不満足だった。




今も裏切られたとは思わない。私も今の形では、満足できていなかったの。


私はロッカーの扉を、外側へ押し開けた。


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