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異世界弱肉強食物語  作者: 近江奈菜奈
異世界巻き込まれ召喚編
6/6

化け物ケダモノ

休みだと(僕にしては)さくさく書けるなー

いつもこのペースで行けるといいなー

 皇帝との謁見から3日。

 この3日間で、どうやら俺に魔術の才能が無いらしいことが分かった。


 呪文で術式を構築し、そこに魔力を流し込み、発する。

 つまりは呪文によって魔術の外枠を組み、魔力を流し込むことによってその魔術に肉付をして、ようやく発動に至る。


 魔術発生までのプロセスは簡単に言うとこういう事らしいのだが、何度やっても俺にはそれが理解できなかった。

 アナスタシアはつきっきりで俺に教えてくれてはいたが、いっこうに俺が魔術を発動させられないのを見ると自分の教え方がまずいのかと凹み、とりあえず俺に翻訳魔術をかけて他の人間とコミュニケーションを取れる状態にしてから、宮廷魔術師の一人に俺の魔術の教育係を命じて引っ込んだ。

 

 俺としては出来ることなら美人に指導して欲しかっただけに、後を引き継いだその教育係の男を見てテンションが駄々下がりになってしまった。

 ガリガリに痩せ細り、髪どころか肌にも艶のない血色の悪い男である。

 目を見張る銀髪美人との落差に思わずため息を吐く。


 アナスタシアからの指示だということで、俺の魔術訓練場所は街からだいぶ離れたところで行われることになり、黙ってがガリガリのおっさんの後についていくことにした。 

 おっさんは俺を一目見るなりすっかり怯えてしまったようで、俺がちょいちょい動く度にびくっと震えていたのだが、俺が魔術を使えないことを話すとぽかんとした表情をしてから説明してくれた。

 なんでも、魔力を保持する人間が誰しもが魔術を使えるというわけではなく、これを行使するには一定以上の才能が必要らしい。

 もっとも、一定以上の魔力を持っている時点で才能ありと見なされているだけに、膨大な魔力量を持つ俺が魔術を使えないというのはおかしな話であるようだ。

 

 訓練場所に着くと、おっさんの魔術指導がすぐに行われた。


「で、では、まず、わた、私の言うとおりにしてみてください!ま、まず―――」


 俺はとりあえずこの男の言うとおりにいろいろ試してみるが、アナスタシアに教えられたとき同様、魔術が発動する気配がまるでない。

 最初こそ俺の魔力量に恐れおののいていた教育係も、俺に魔術の才能が無いとわかるとすっげえ上から目線の物言いになり、更には俺の苛立ちを煽ってくるようになりやがった。


「はっは~ん。こ~~~~んなにいっぱい魔力を持ってるのにそれを使う術が無いなんて宝の持ち腐れですね~~~」


 顔が近い!息がくさい!唾がかかる!


「今のはぁ、『ふぁいあーぼーる』って言ってぇ、ある程度魔術の才能のある人間ならぁ、大体すぐにできるようになる呪文なんですよぉ?これすらできないなんてお話になりまちぇんね~?」


 幼児言葉で煽るんじゃねえ、数倍腹立つわ!


「あなたの魔力量を鑑みて皇都から離れたこの地を訓練場所にしたというのにこれじゃあ無意味ですね。帰りがめんどくさいじゃないですかどうしてくれるんですか?」


 知るか俺に言うな!なんなら歩いて筋肉付けろ!


「あっ、今ちょっと呪文の発音がおかしかったな~。最後の『我に応えよ』の『よー』って伸ばしちゃってるのが悪いんじゃないかなうん。ひょっとしたらそれで発動に失敗してるかもしれないからぁ、3時間くらい繰り返してみましょうか?えーと、アシカさんだか案山子さんだか言いましたっけ?」


 嵐だよバカ野郎!つーか難癖にも程があるだろうが!


「こ~~~んなに私が、将来宮廷魔術師になるはずのこの私が、こ~~~~~~~~んなに時間を割いてつきっきりで指導しているのにできないなんて、才能な~~いんじゃないんですかぁ?え?これ意味あるんですか?」


 黙って仕事せーや腹立つ!禿げろ!上から順番に禿げて最終的に全身つるっつるになっちまえ!




 もう完全に俺を見る目が自分より格下を見る目になっている。

 当初は怯えられるよりかはましかなとか考えていた俺も、段々むかっ腹が立ってきた。


 実を言うと、この3日間まったく進歩が無かったわけではない。

 魔術の発動はさっぱりだが、1日目で魔力がどういうものかを理解し、感知することには成功したのだ。

 なるほど、他の人間に比べると塩一粒に対して湖くらい違う。

 これは怖がられるわけだ。


 その次の日には、自分の体内の魔力を動かすことにも成功している。

 魔力を操作して自分の体を覆ってみたところ、身体能力がけた違いに上がることが分かった。

 一跳びで宮殿の屋根に届いてしまったのには驚いてしまった。

 アナスタシアにこのことを話すと、魔族が用いる技術の一つにこのようなものがあるらしい。

 人族にはできないのかと尋ねると、やはり魔力が足りないから難しいとのこと。


 

 しかし、どうにも呪文を唱えて魔術の外枠を組み立て、そこに魔力で肉付をする感覚が理解できないのだ。


 そこで俺は閃いた。

 教育係の男を黙らせるために必死に考えて閃いた。


 術式なんて用いるからごちゃごちゃして訳が分からなくなるんだと。

 なら術式なんて使わなければいいじゃないか!


 そう思った俺はすぐさま行動に移った。


 念じろ。


 曖昧なものではなく、自分の脳を騙せるほどのイメージを……。


 それでもって魔力をイメージに近づけろ……!


 魔力を動かしつつ、イメージするものに魔力を近づけるんだ……!


「ちょっとちょっと何を黙り込んじゃってるんですかぁ?そんなことじゃあ一生かかっても―――」


 イメージ、炎。


 そう、あの迫りくる炎を思い出せ。


 魔力の、炎。


 熱くて大きい炎の塊。


 炎の塊。


 炎……感じた!


「炎だ!」


 そう言って両手を挙げると、俺の頭上にとんでもない大きさの炎の塊が生まれた。

 しかしこれは……と、自分で生み出した炎の塊を見て思う。

 もし今いる場所が平原の真ん中でなかったら、大惨事になっていたな。

 考えてもみろ。


 推定直径50メートル程の炎の塊を宮殿内に出現させた日には、そのまま皇都が陥落してもおかしくないぞ?

 事実俺の周囲の草木が無くなり、裸の土ばかりになっている。

 自然破壊に少しばかり心が痛んだ。


「ほおらできたぞ!見てみろこのやろ―――」


 教育係の男を見返してやろうと振り返ると、この男は既に泡を吹いて気絶してしまっていた。

 どんだけ気が小さいんだよ。

 まあでも、仕方のないことなのか?


 とりあえず生み出した炎の塊をどうにかしなければと考えたが、練習がてら空に放ってみることにした。

 

「あらよっと」


 炎は途中にあった雲を掻き消しながら矢のように一直線に空を登っていく。

 圧巻である。

 まるで太陽が打ち出されたような光景に、自分自身でやっておきながら思わず息を飲んだ。

 そうして炎の塊がだいぶ小さくなったのを見て、そいつを爆破するイメージをもって、


「爆・散!」


と、両手を勢いよく握る。


 次の瞬間、衝撃波を伴った轟音が轟いた。


 衝撃波の影響なのか大地がびりびりと震動している。


 教育係の見せた火の玉に比べると、その威力はそれこそおもちゃと爆弾程に違う。

 少しやりすぎたかなと反省しつつも、


「できた!ようやく魔力の使い方を理解したぞ!」


 その現象を引き起こすことに成功した喜びの方が、今は大きかった。


 これをきっかけに俺は魔力の使い方を覚え、寝ている教育係の男を尻目に独自に魔術を開発していった。






 その頃、皇都は騒然としていた。


 突如空に何かが現れたと思った次の瞬間、現れた何かが大爆発したからだ。

 大爆発の轟音は人々の耳をつんざいた。

 それだけならまだしも、その爆発で発生した衝撃の余波が都市内のあちこちを破壊したのだ。


 窓が割れ、人々が倒れた。


 この事象を、市民は魔族が攻めてきたのだと勘違いしてパニックになったのだ。


 それに対する皇帝の対応は迅速だった。

 速やかに兵を市内に派遣し混乱を鎮圧、そして被害の復旧を執り行わせたのだ。

 おかげでこの混乱による負傷者の数は最小限に抑えることができた。


「(十中八九、あの炎の塊は嵐殿の魔術でしょう。私はまず簡単な魔術から教えるように指示したというのに……ルシアは何をやっているのかしら?)」


 皇帝は溜息を吐きながら、市内の様子を報告する兵の言葉に耳を傾けるのであった。







「これはどうしたものだろうな……」


 魔力で出来ることを完全に理解し、先ほどの炎の他に実験的に様々な魔術を行使した。

 もう十分魔力を操る事が出来るようになったろうと確信し、さあ帰ろうと教育係の男を起こそうと振り返って驚いた。


 そこには汚い中年の姿はなく、線の細い『少女』がいたからだ。

 

 その少女のどこに目が行くと言われれば、まず鈍色のくせ毛に目がいってしまう。

 天然パーマと言う奴だろうか?

 少々きつそうではあるものの、少女の容貌は美少女と言っても誰も文句を言わないだろう。

 背格好から判断するに、中学生くらいだろうか?

 

 少女は黒いローブの下に可愛らしいワンピースを着ている。

 ワンピースの上から少女の胸を見てみるが、なんか大したことが無かったので次に移ろう。


(ぴくっ!)


 一瞬少女に苛立ちの表情が浮かんだ気がしたけど気のせいだろう。

 次に目がいったのは、少女の右手に握られた魔術を増幅させる術式の組み込まれた『ワンド』だ。


 何で俺にそんなことが分かるんだと疑問に思われるかもしれないが答えは至極単純。

 直接教えられたからだ。


 聞いてもいないのにぺらぺらと希少な樹木を削って造られただの、一流の魔術師以外には使えないだの、そもそもお前の様な能無しでは一生働いても拝むことはできなかっただろう、などと直に御高説を賜ったので知っていたのだ。


「まさかあのガリガリなおっさんの正体がな……これも魔術なのか?全然違和感なかったぞ」


 そう。

 大爆発を成功させて満足した俺が振り返ると、気絶していたはずのおっさんの姿はそこにはなく、代わりに前述の美少女が横たわっていたのである。

 痩せこけたおっさんとのギャップがありすぎて呆然としていた。

 しばらくしてから我を取り戻し、このままにしておくのもまずいと思い、少女を背負って宮殿へ戻ることにした。

 

 女の子を背負うなんて妹たち以来だが、少女は妹たちより断然軽かった。

 

「親父たちがまだ生きてた頃、よく親父と俺とで二人をおぶってかけっこをしたっけ……」


 幸せだった頃の記憶を思い出して、思わず呟いてしまう。

 しばらくノスタルジックな気分に浸っていると、背負っていた少女が呻き声を挙げ、俺の肩に預けていた頭をあげた。


「目が覚めたようだな。気分はどうだ?」


 少女は自分の置かれている状況が理解できなかったのか上の空であったが、しばらくするとおぶわれている状態にもかかわらず大暴れをはじめた。


「はなっ、離しなさいよ!私を誰だと思ってるの?!あんたたちみたいなのが私に触れないで!!」


「待て待て落ち着け。別にお前に危害は―――」


「母様ーーーー!!化物が私を犯すのよーーーー!!助けてーーーー!!!」


「あば、暴れるな!いいからまずは俺の話―――」


「いいから降ろしなさいよ化け物ケダモノ―――ふぎゃっ!」


 少女、いや小娘があんまりの物言いをしてきたので、乱暴ではあるが望み通りその場に降ろしてやった。

 街の門も見えてきたし、ここからは歩かせればいいだろう。


「も、もっと丁寧に降ろしなさいよ、この化け物ケダモノー!!」


「お前が降ろせと言ったからそうしたまでだ。人を化け物だ、ケダモノだと随分じゃねえかおい」


「だ、だってその通りじゃない!無詠唱であんな巨大な炎の魔術……魔王でなきゃ化け物以外ないじゃない!」


 少女の表情からは俺に対する恐怖が見て取れた。

 やはりあの炎はやりすぎたと、改めて反省する。


「言いたいことはあるが、まあそれはいいとしよう。残りのケダモノはどこからきたんだ?」


「あたしを犯そうとしたじゃない!」


 頭が湧いてるのかこの小娘?

 それとも想像力が異常なのか?


「背負って宮殿まで戻る途中だっただけだ。他意は無い。そもそもお前相手では食指が動かない」


「きぃーーーっ!!なんですってーー!?」


「お前を抱くくらいなら、年は離れているけどアナスタシアを抱きたい」


 たわわに実った果実とは、あの胸のようなものを言うんだろう。

 あれほどのものは雑誌かDVDでしか見たことがない。


 俺がそう言うと、小娘は顔を真っ赤にして俺に飛びかかってきた。


「母様をいやらしい目で見るなー!!私を馬鹿にするなー!!うわーーーん!!」


 どことなく似ていると思っていたら娘だったのか。

 どこがとは言わないけど、似ないものなんだな。


 小娘はぽかぽかと半泣きで俺を殴りつけるが、ちっとも痛くないので無視を決め込んで歩を進める。

 今日は疲れたからとっとと帰って風呂に入りたい。

 

「無視しないでよー!!私を見なさいよーー!!うわーーん!!」


 結局俺は門に着くまで半泣きの小娘に叩かれ続け、それを見た門番はなんとも言えない顔をするのだった。
















「母様!!あの男を追放しましょう!!」


「ルシア、その前に何があったのかを報告―――」


「もしくは人族の総力を挙げてでも叩き潰すべきです!!」


「その判断をするためにも報告を―――」


「あんな男あんな男あんな男ーーーー!!」


「だからルシア。まず報告をしなさい。いったいあれはなんだったの?」


「こともあろうに私より母様をだ、だ、抱きたいなんて!私にも母様にも無礼だわ!!」


「……え?ルシア今なんと?」


「でもあの化け物みたいな男、一筋縄ではいかないでしょうから、本当は嫌だけど勇者を使って―――」


「ねえルシア?誰が誰を抱きたいって?」


「ぜーーーーったい思い知らせてやるんだから!!」


「ルシア、具体的に今の話を―――」


「こうしちゃいられないわ!母様、私ちょっと準備がありますのでこれで!!」


 皇帝が呼び止める暇もなく、ネーイ聖皇国第二皇女ルシアは飛びだしていった。

 面倒事を呼び起こす気配をまとって。


「嵐殿がまさかそんな、ねえ?こんなおばさんを相手に……ポッ」


 面倒事は一つでは済まなそうである。

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