65年前の約束編 エピローグ
冬だと言うのに暖かい日差し。昔に感じたことのある暖かい気持ち。そんな風に感じれる私は少しだけ成長出来ているのだろうか?今日は十二月二十五日のクリスマス。街中はいつも以上に家族、カップルが目に入る。みんな楽しそうで特に子供たちはそれはそれは嬉しそうな顔をしている。今日の朝にでもきっとサンタさんからプレゼントが届いていたんだろう。楽しそうな表情を見ているだけで私まで嬉しくなってくる。
「ごめんなさい!お待たせしましたか?」
「ん?んーん!それよりおばさん達とはもういいの?」
「あ・・・はい!それよりコレ頂きましたよ!」
「これって・・・?」
そう言うと晴樹君は妙にニコニコしながら1つの真赤なリボンが結んである白い箱を差し出してくる。一瞬なにか分からなかったのだけどそれはすぐに分かってしまう。きっとこれはケーキだ。
「これ、手伝ってくれたお駄賃、だそうです。久々ですね。現物支給って。じゃあ、買い物をしてパーティーの準備をしましょうか!」
そう笑いながら彼は袋にしまい歩き出す。彼の優しい笑顔に私は昔どこかで見たことがあるようなそんな気がした。それは、どこだったのかまではよく思い出せずに立ち止まっていると
「どうかしましたか?体調でも悪いですか?」
「あ、ううん!大丈夫だよ!よっし!買い物をして帰りますかっ!」
「はい!」
買うものは決まっていたため買いものを済まし家へと帰る。一日だけしか家を留守にしていなかったのに何故か疲れがいつも以上に襲ってくる。晴樹君も同じだったようで顔色に疲れが見え隠れしていた。その表情が面白くついつい笑ってしまう。彼もつられて笑いだす。久しぶりの一人じゃあないクリスマス。
「よっし!じゃあ、冷蔵庫に入れますね」
「うん!じゃあ、私は料理を作るよー!六時ぐらいには食べれるようにしたいね!」
「僕もなにかお手伝いしましょうか?」
「んーん!大丈夫!座ってテレビでも見てて!」
「そんなのなんだか申し訳ないです」
「いいからっ!」
そう言うと晴樹君を居間へと連れていき無理やり座らせる。最初は抵抗していたものの私が強く座ってていいからと言ってしまったせいか最後は、すいません、と言い座りながらテレビを見始めた。ここは、楽しみにしていますね、なんて言ってほしかったななんて思いながら台所へと向かう。だけど、謝るところが晴樹君らしくてちょっと面白くもあった。しばらくして台所の時計を見るともう五時半を過ぎようとしていた。料理に集中していたせいか時間が経つのがもの凄く早く感じた。
「よっし!ビーフシチューも出来たし鳥の唐揚げもおっけ!サラダもおっけ!キッシュもあと少し!えっと冷蔵庫にはケーキ、シャンメリーはあるね・・・晴樹君!運ぶの手伝ってもらってもいい?・・・・・・あれ?」
返事が無かったため居間へ行くと電気は付いているけれどテレビは付いておらず晴樹君の姿もなかった。その代わりに一枚の紙が置いてある。ちょっと買い出しがあるので買ってきます、と言うメモ用紙を残し外出していた。
「もー!ちゃんと声かけてくれれば良いのにっ」
外は薄暗くなり始めたためカーテンを閉め居間に料理を運び始める。自分で言うのもなんだけどとても美味しそうなクリスマス料理ができた。誰かのためにこうやって料理を作るなんて初めての事なので晴樹君がどんな反応をしてくれるのかが楽しみだ。料理も運び終わり座って待つことにする。すると六時を告げる音楽が流れ始める。
「六時には食べようって言ったじゃん・・・」
音楽が鳴り終わり静寂が部屋を私を包み込む。さっきまでは一人っきりでも大丈夫だったはずなのにどうしてか急に胸の奥がキューっと握り締められているようなそんな感覚で段々と息苦しくなってくる。
「一人は嫌だよ・・・晴樹君・・・」
すると静寂を切り裂くチャイム音が響き渡る。咄嗟の事でつい体が浮き膝を机にぶつけてしまう。
「痛いっ!・・・はーい」
玄関へと歩きドアを開ける、とそこにはぜーぜーと肩で息をしながら呼吸と整えているサンタクロースが立っていた。息を切らしながらなにか喋ろうとしているのだけど息つぎのせいで上手く喋ることが出来ていない。きっとサンタさんは一生懸命に走ってきてくれたんだろう。
「えっと花さ・・・花ちゃん!メリークリスマス!フォフォフォ!僕が・・・わしが誰だか分かるかい?」
相変わらず不器用なその人は一生懸命サンタクロースを演じてくれていた。私はいつものように笑って返事をしようとしたのだけど上手く声が出て来なかった。目の前のサンタクロースももう少し堂々としていればいいのに私の表情を見るなりおどおどし始める。
「は、花さん・・・ちゃん・・・大丈夫で・・・かい?」
「あははっ・・・大丈夫だよ!サンタさんっ」
「ははっ。いつか来るって約束をしていただろう?今まで約束を守れなくてごめんね。わしにも色々とあって約束を破ってしまった。本当にごめん。だけど、大丈夫じゃよ。今年からまた毎年・・・わし・・・僕が・・・僕が花さんのサンタクロースになります」
「・・・」
つけていた髭を取りいつもの晴樹君の表情とは少し違い少しだけ大人の男性っぽく見えた。私は頷くことしか出来ずにいた。
「うん・・・うん」
「・・・ほほほ。それと、これはサンタさんからのプレゼントじゃ」
「ぷっ。キャラクターが定まっていないよ。しっかりしてよねっ」
「えっと・・・す、すいません」
「んーん。ありがとう。サンタさん」
そう言い私は彼の両手を握る。
「わ、わしに触ってはならんのじゃ」
「くすっ。どうしてですか?サンタさん」
「は、恥ずかしいからの!は、ははは」
先ほど見た彼の表情とは代わりいつもの変わらない彼の表情に戻っていた。髭は取れかけもう誰かなんて分かってしまっているけれど、幼いころ見たサンタさんではないけれどちゃんと遅れてきてくれた。
「えっ」
一瞬、彼の後ろにもう一人のサンタクロースの姿をした誰かが居た気がした、けれどもう一度見ても誰も居なかった。気のせいだったのかもしれない、けれど、あの姿は昔に見た事のあるサンタクロースによく似ていた。今私の目の前に居るサンタさんはいつも頼りなくておっちょこちょいだけれど私の大切なサンタ(ひと)になってくれる気がした。
「あ、あの・・・は、花さん?」
「えっ?」
「そ、そろそろ手を離してもらっていいですか・・・本当に恥ずかしくて・・・」
「あっ・・・ごめん」
「い、いえ・・・」
妙な空気が二人の間を漂う。しばらく無言で立っていると彼が、あっ、と言う声を発し空を見上げていた。つられ見上げてみる、と
「わぁ・・・雪だ」
シンシンと純白な雪が暗い夜空から降り始める。
「凄い!ホワイトクリスマスですね!」
「うん!綺麗だねー」
すると彼のお腹辺りからグーと大きな音が聞こえてくる。ロマンチックな状況でこう言った雰囲気になるのは私たちらしいなんて思ってしまう。
「夜ご飯の準備は出来てるよっ!晴樹君が返ってくるのが遅いから冷めちゃったよ?」
「うわー!ごめんなさい!」
「ふふっ!いいよ!温めてクリスマスパーティー始めようよっ!それで、晴樹君が昨日言おうとしていたことも教えて?今の私なら大丈夫な気がするの・・・だってね?」
「・・・」
「私にはもっと大切なサンタさんが居るって分かったから」
「特別なサンタさん?」
「・・・」
相変わらず肝心なところが抜けていると言うかなんと言うか・・・だけどきっとそんな所も私は、あれ、なんだと思う。
「とりあえず!パーティーを始めるよっ!」
「はい!」
次回 星空との約束