65年前の約束編 プロローグ
「う―寒いですね」
隣に居る女性に向かって言った訳でもなくぼそりと独り言のように白い息と共に言葉を吐きだす。彼女も小さく頷きながら両手を擦り空を見上げる。
「ホントに寒いねー。でもやっぱり冬は良いよね」
チラチラと雪はまだ降っていないけど真っ白な、だけど少しだけ灰色を混ぜたような雲が街全体を覆い始めていた。きっとこれは雪雲だ、なんて思いながら僕と花さんは街中を歩いている。
「クリスマスと言えばやっぱり鳥の足を買わなきゃだね!あとは、やっぱりピザとか?シャンパンも欲しいよね」
そう言う彼女の笑顔はいつもよりも二割増しで可愛く見える。つい見蕩れてしまいそうになる、けどずっと見ていても気持ち悪がられるだけなのでそっと見て視線を逸らす。と言うよりも気持ち悪がられたら終わりだ。
「良いですねー。でも、シャンパンはアルコール入ってて花さんはとんでもないことになるんでシャンメリーにしましょう」
「うん、うん?!ちょっとぐらいアルコール飲んでもいいでしょ?!せっかくクリスマスなのに」
少し不貞腐れながら抗議をする彼女の表情も相変わらず可愛くつい許してしまいそうになるけどアルコールを摂取するととんでもない事になるため話しを逸らそうと違う話題を口にする。
「あ、あとケーキも予約しなきゃですね」
「そうだね。毎年、ショートだったけど今年は晴樹くんもいるからホール買おうか?!でも、あんまり大きすぎてもだからちょっと小さめのホール!」
「良いですね。僕、甘いもの好きなんで沢山食べちゃいますよ」
街中のイルミネーション、音楽、横を通り過ぎる人々全てが明るく華やかな表情、音、光を放っている。気がつけば明日はクリスマス。今、僕たち二人は華やかにとまではいかないけどちょっとしたクリスマスパーティーをしようと言う話しになりその買い出しをしている。クリスマスと言う日に花さんと一緒に過ごせるだけでも幸せなのにパーティまで出来るなんて僕は一生分の運を使いきってしまったのかもしれない。クリスマスと浮かれている人々だが、ちらほらと来年の準備もしているお店も多い。と言っても今はクリスマスムード満載の街中。街中も明日のクリスマスが待ち遠しいのだろう。大人になってもこう言ったイベントはやっぱりワクワク、ドキドキしてしまう。今年は好きな人と一緒に過ごせるのだからいつも以上に張り切ってしまう。ピタリと彼女の足が止まる。視線を辿るとあるショーウィンドウを見ているようだった。そこにはマネキンが色とりどりのコートを羽織っておりどれも可愛らしく彼女にぴったり合いそうな物ばかり。プレゼントしましょうか?、なんて言えるはずもなくジッと彼女が視線を逸らすまで一緒に眺めていた。
「あ、ごめんね!行こうかっ!」
「良いんですか?お店に入って見てみます?」
「ん、いいの。ありがとう。それより色々と買い出ししなきゃ!」
笑顔で言い歩き出したので僕は一応どのぐらいの値段なのかチェックを済ませ花さんのあとを追いかけ、追いつくと花さんの歩幅に合わせ歩く。
「晴樹くんってサンタクロース信じてる?」
「サンタクロースですか・・・うーん。大声では言えないですけどきっといると思ってます」
彼女は意外そうな表情をすると同時に優しい笑顔でほほ笑んでくる。
「晴樹くんもそうなんだね」
「そうなんだとは?」
「ふふふ。私も信じてるんだー。きっとね?サンタクロースっているんだよ。真っ白な髭を生やして優しく笑っててさ。私に夢をくれるって信じてるんだ」
嬉しそうに話す表情は優しく、だけどどこか儚く僕の目には映っていた。すると彼女の少し後ろに微かにだけれどジーパンに真赤なセーターを着て白い髭を生やした人が立っていた。
「ん?どうかしたの?」
「いえ、何でもないです。とりあえずケーキ屋に行って予約しに行きましょうか?」
「そうだね」
もう一度視線を先ほどの人影はなくなっていた。きっと先ほどの人は【人だった人】だろう。でも、嫌な感じはしなかった。きっと、僕に何か(きもち)を伝えに来たんだろう。花さんには見えていないようだったし。僕は静かに誰もいない、その、場所に向かい頷き言葉を吐く。
またあとで窺います、と。