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カーネーション編

僕の視線の先には小さな花屋さんが映っていた。お客は誰もいなく本当に営業しているのかと思わせるほど店内は明りもついていなくひっそりとしていた。なぜか気になったため入店する、と奥から黒髪ショートの女性が焦りながらもこちらを見つつ挨拶をしてくる。営業スマイルとは程遠いが素朴で可愛らしい笑顔。年齢は僕よりも二、三歳ほど下だろうと思わせる幼さ。彼女はバランスを崩しながらもなんとかスリッパを履きこちらへ歩いてくる。流石、花屋の店員さん。ふんわりと花の香りを引き連れてくる。絵に書いたようなかわいらしい店員さんを僕は一目ぼれしてしまうのにそう時間はかからなかった。

「あ、あの?」

「・・・え?・・・あ!はい!」

自分の世界へと入ってしまっていたため店員さんの彼女はこちらを困ったような表情で見てきていたため少し後退し愛想笑いをするしかなかった。すると彼女はクスリと笑う。

「あはは・・・すいません」

「いえ。それで今日はどのような御用件でしょうか?」

「あ、えっと・・・」

単に気になってしまったからなんのようもなく入店しましたとは言いにくくなんとなく目に着いたカーネーションに視線を向ける。すると彼女もまた視線を追うように見ると「ああ」と言う感じに小さな声を出すとカーネーションの方へと歩き出す。すると一本の赤いカーネーションを手に持ちこちらへ向かってくるなり不思議な事を口にする。

「もしかして花屋に見えています?」

「え?」

咄嗟のことで上手く反応が出来ずにいると彼女は全てを分かったような表情をすると彼女はハッとした表情になり頭を下げてくる。

「ごめんなさい。別に困らせるために言った訳じゃあなくて!深い意味で言った訳じゃあないので。気に障ったのならすいません」

「あ、いえ。こちらこそなんか上手く反応出来なくてすいません」

あまり気にさせないように笑いながら言ってみたものの彼女の表情は一向に雲行きが怪しいままだった。すると彼女が、改めてこちらを向いてくる。最初は気がつかなかったのだけれど彼女の左右の目の色が違ったのだ。世間で言うオッドアイと言うものだろう。と言っても別にオッドアイだからと言う訳もないためあえて触れず彼女の視線に合わす。そうすると自然と目が合う。吸い込まれてしまいそうな澄んだ黒と青色の目。

「うん・・・分かりました」

「え?」

彼女は僕と視線を交えてなにが分かったと言うのだろうか。ふむふむと頷くように彼女はカーネーションを持ちながら難しそうな表情をし始める。普通の人ならば彼女の言動、行動をみてそそくさと逃げ出してしまうだろう。僕自身も最初のおっとりとしたぽわぽわな女性かと思っていたのだけど少々違う気もして来ていた、がそれ以上に彼女の事を一目ぼれしてしまった僕はその場を動く訳にはいかなかった。少々の困難ならば乗り越えてみせるそんな事を勝手に考えていると彼女が口を開く。

「とりあえず、ここではなんなのでどうぞ。お茶でも出しますので」

「は?」

ものの数分で彼女は自宅?へと招き入れてくれる。展開的には物語の主人公になった気分だったのだけど流石にそれは気持ちがいいものではなかった。流石に身構えてしまっていた自分がいる。

「大丈夫です。私は貴方を助けるためにいるので」

にこりとそうほほ笑み彼女はドアを開け部屋へと入っていく。「貴方を助けるためにいる」その言葉に引っ張られるように彼女が入っていたドアの先へと足を踏み入れる。特別怪しいものもなく至って普通の和室と言ったところ。机の上には茶菓子なるものが置いてある。奥の方でガチャガチャと音がしているのでとりあえずその場に立っていると彼女がおぼんを持ちながら部屋へと入ってくる。

「あ、座ってもらってよかったのに。すいません、気がつかなくて。どうぞお座りください」

「あ、いえ。こちらこそそわそわしてすいません」

そう言いながら座るの僕の発言が面白かったのかクスリとほほ笑みながらお茶を音をたてず目の前へと置いてくる。湯気がもこもこと上がっており猫舌の僕にはいかささすぐに頂けない温度であることがすぐに分かる。彼女もまた自分用の湯呑だろうか?それもまた音を発てず置き向かい合うように座る。すると彼女はうっすらと微笑みこちらを見てくる。

「急にごめんなさい。でも、ここに来店して下さったのもなにかの縁ですし少しお話しがしたくて」

「はぁ・・・お話しですか」

「はい。なんでも良いですよ。私は話しを聞くだけなので」

今日初めて会った女性に「なんでも良いから話しをしましょう。でも、私は聞くだけですけど」なんて言われてしまった場合どう言った事を話したらいいのか分からないし戸惑ってしまうのは当然の事だと思う。実際に流石の僕でも戸惑い苦笑いをすることしかできずにいた、がなんとなく心の奥にしまっていたはずのモヤモヤがどうしてか急に出てきたような感覚を覚える。その感覚を思い出した瞬間に彼女の方へ視線を向けると全てを分かっていたかのように微笑みこちらを見ていた。だけど、この事は誰にも話してもいなければ知っている人もいるはずがなかった。そのもやもやは今日起こった出来事だったからだ。どうしても目をそむけたくて「それ」を胸に閉まっていた。

「あの・・・実は・・・」

「・・・はい」

静かに彼女は懐かしく優しい微笑みを向けてくる。その女性は誰かに似ている事を今思いだす。そう、昔写真で見た事がある女性・・・母親に似ていたのだ。マザコンなんて言われてしまうかもしれないけれど男って言う生き物はきっと母親が大好きだと思う。もちろん父親も好きな人だっているだろう、けど僕は片親で育ってきたためいっそう母親に対する思いが強い。しかし、今日未明に母親が亡くなったと病院経由で連絡を受けた。どうしても僕は「その出来事」を受け入れることができずただ何も考えず歩いていた。いや、死に場所を探していた。その時にここが目に入った。

「体が悪いとは知っていました。だけど・・・」

話しをしているうちに頬からは涙が流れていた。情けなくどうしようもないのだけど止まらなかった。彼女は昔僕が泣いていた時に頭を撫でながら見せる母親の表情の様に優しく頷いてくれていた。

「・・・ご、ごめんなさい。いい大人が泣いてしまって」

「・・・いえ。でも、貴方が死ぬことをお母さんは望んでいませんよ?」

「・・・でも、どうしていいのか分からなくて」

「貴方のお母さんがこちらに来たんです」

「え?」

すると彼女は誰もいるはずがない場所へお茶が置かれている事に今さらながら気がつく。まさかと思い誰もいるはずがないその場所へ視線を向けてもそこには誰もいるはずがない、が彼女に視線を向けてみると真剣にこちらを見ていた。

「お話しをしたいですか?」

「お・・・話し・・・」

そう言うと彼女は目を閉じそして目を開く。すると懐かしい表情をした母親の姿がそこにはあった。

「か、母さん・・・」

「何をしてるんよ!私が居なくなったからって同じ様に死のうなんてバカなことを考えるのはやめなさい!」

口調、仕草全てが母親だった。目の前に居るのは初めて会った女性なのにどうしてか僕の目の前には母親が居るようにしか見えなかった。

「こんな若い子の体を使っちゃって悪いわねー」

「なに、言ってんだよ・・・」

「あははっ。母さんは元気にしてるからね」

「元気にしてるって・・・もう死んでんじゃん・・・」

「そうだったね!アハハハ。忘れてた」

「バカ・・・」

「うん。母さんは馬鹿だからさ。母親似でアンタもバカでどうしようもないけど私の自慢の息子なんだよ?だから私が死んだからってアンタまで死のうなんて思ったらダメだよ?分かった?ほら、約束・・・」

そう言うと昔のように小指を立てこちらに向けてくる。

「ほらっ。もう時間がないんだから。大人になったんだからもう少しシャッキとしないと!」

そう言うと半ば無理やり手をとりいつものように元気づけるための指きりげんまんをしてくる。

「ゆびきりげんまん。晴樹は強い子。強い子。元気の子ー。指切った!」

「・・・かあさん」

「ん?」

「・・・ありがとう」

「ふふっ・・・母さんこそ沢山の楽しい思い出をありがとう。頑張れ!晴樹っ!」

「・・・お母さんに会えましたか?」

視線をあげると花屋の彼女がこちらを見下ろすように見ていた。

「・・・はい。逢えました」

「そうですか。良かった・・・えっと・・・」

「?・・・あ!すいません!」

彼女の膝を枕にしている事を忘れておりそのまま話しをしていた、のですぐに起き上がり座り直す。そして見つめ合い僕らは微笑む。


これが僕と彼女の出会い。この事がきっかけで僕は彼女の手伝いをすることとなる。


けど、それはまだ別のお話し。




新作物語の零章を見て頂きありがとうございました。この作品は短編集みたいなもので色々な人の話し(○○○編)を書いております。その主人公(晴樹)と主人公(花)の出会いの作品をあげてみました。どうだったでしょうか?少しでも楽しんで頂けたのなら嬉しいです。

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