地球の高校生、宮野和樹の場合
今回担当:蓑虫
「はー……だるい。面倒だな」
とある学校のとある教室、そこで登頂部が少々怪しい事になっている白髪の化学教師が、淡々と黒板にブタンの構造式を書いている時。一人の生徒が小さく、誰も聞こえない位の声で呟いた。
その生徒の名は宮野和樹。
彼もまた、教師と同じように淡々とノートに番書を写しながら、教師の言葉を意識的にシャットアウトして、前の席の生徒の背中に隠してスマートフォンを左手で操っていた。
(ここら辺はもう教科書読んで理解してっからなー。つかあの教師教えんのめっちゃ下手だし、聞く価値無い。教科書読み込む方が効率が良い。
──『少女の慟哭が、空に響いた』っと)
彼が今行っているのはスマホのゲームでも、友人に送るメールやLINEでもない。
彼は、小説を書いていた。
彼はとある小説投稿サイトに小説を投稿している、しがない作家だった。
まったく読者が居ない訳でもないが、凄く人気がある訳でもない、非常に中途半端なユーザーだ。
たった今更新分を書き終え、日曜の零時に更新されるよう予約投稿をする。そして一仕事終わった、とでもいうように軽く首を回した。
そしてこの後このまま次話を書くか、それとも寝るか、という学生としてあるまじき二択で悩む。
「──じゃあここの問題を……宮野!前に出て答えろ」
「ゲッ」
そんな事を考えていた罰か、いきなり教師に指された。だが、話を無視していた彼は当然の事ながらその問題が分からない。
チラリと右隣の席の友人に視線を送ると、その友人は苦笑しながら、いつも通りシャーペンの先で問題を示した。
『エタノールの構造式を答えろ』 と。
「サンキュ、達也」
「ちゃんと話聞いとけよ、和樹」
教えてくれた友人──上峰達也に小さくお礼を言いながら席を立ち、いつも通りの小言をスルーして黒板に向かう。スマホはさりげなくポケットに入れた為、教師にはバレていない。
白いチョークを手に取り、やや汚い字で素早く答えを書く。カカッという音が静かな教室に響き、あっという間に答えを書き終えた彼は軽く叩きつけるようにチョークを置いて一番後ろにある自らの席に戻る。
後ろから聞こえてくる丸をつける音と解説を聞き流しながら再びスマホを取り出して、お気に入り登録してある小説が更新されているのを見つけた為今度はそれを読み始めた。
そんな日常。
それが、右隣の友人の影響で崩れ去る事になるなど、この時の彼は想像もしていなかった。