パラレルワールドの完璧超人、藍神鈴蘭の場合
今回担当:勇輝
完璧超人。
頭が良く、運動神経が良く、顔が良く、スタイルが良く、性格が良い人間を指す言葉。
それが藍神鈴蘭という少女の評 価でもあった。
『藍神さん、またテスト一位だってよ』
小、中と定期試験は常に満点で不動の一位。
『新記録 藍神鈴蘭』
何かの大会に出れば、それまでの記録を塗り替えてトップに立てた。
『本日紹介するのは未来の超絶美女、藍神鈴蘭ちゃんです!』
街を歩けば男女問わず目を引くルックス。おかげで、アイドルや女優に毎日スカウトされ、あげくの果てに番組にまで 取り上げられた。
『藍神さんって誰にでも優しいよね!』
自分は特別何かをしているわけ でもないのに、誰かに関わっただけで『優しい』と言われた。
ここまでのことを彼女は息を吐くように簡単にできた。
努力せず、苦悩せず、葛藤せず にできた。当然のようにできた。そして、それが『藍神鈴蘭 』という少女だった。
しかし、いやだからこそとでも言うべきか。
藍神鈴蘭は高層ビルの屋上から飛び降りようとしていた。
「…………高いなぁ」
コンクリート製の縁から下に視線をやる。 高い。 道を通る人や車がミニチュアの ように感じられるほどだ。
一通り見終えると、靴を脱いで綺麗に揃える。その上に五分で書き終えた遺書も置く。
そして縁の上に立った。
後はここから一歩踏み出すだけだ。
彼女が自殺を決意したのは至極簡単な理由だった。
飽きたから。この世界に。
例えばの話、買ったばかりの ゲームを始めたとしよう。プロローグも終わり、さてここから だという時に、いきなりゲーム 最強アイテムが手に入ったらど うだろうか? レベルなんて気にせずに、装備 を変える必要もなく、ただただ 目の前の敵を一撃で倒していくだけ。 それはもうゲームとは呼べないだろう。
鈴蘭にとって、『人生』とはくだらない単純作業と化しているのだ。
何をしても、どんなことをして も確実にプラスの方向に物事が動いてしまうから。
そんなのはつまらない。
だから、死ぬ。
さっきの例えでいうならば、単純作業のゲームを捨てて、別のゲームを始めるといったところか。
「…………生まれ変わりってものがあるなら、だけど」
恐らく、というか確実に周囲の 人間は『何を馬鹿なことを』と言うだろう。『そんなに優れたことができる のに』と。
しかし、彼らは知らないのだ。 才能が無い者が『無い』ことに絶望するように、才能が有る者 も『有る』がための闇が存在することを。
「さて」
ふぅ、と一度深呼吸をする。そして、鈴蘭は縁から身を投げた。
予想通り、身体を強い風が撫で回し、思わず目を閉じる。そして即座に開けた。 というより開いた。腹の中で暴力的な熱さが暴れ出したからだ。
事前に計算した落下から地面までの浮遊時間はほんの数秒だ。ほんの数秒我慢すれば、鈴蘭の意識ごと消えてなくなる。
そのはずなのだが。
「…………?」
長い。
コンクリに頭からぶち当たって、イロイロブチマケてもいいはずなのに、その衝撃がやってこない。
そもそも眼下の景色はコンクリートではなく、公園の砂場に変化している。
「.........................!?」
反射的に、昔"軽く齧った武道"で習った『着地したときの身体にかかる衝撃を無くす』方法で、軽やかに砂場に着陸する鈴蘭。
「え?」
そして、目の前には遊びに来ているであろう親子が呆然としている姿 が。
「…………こんにちは、空から落ちてくる系ヒロインです」
藍神鈴蘭は内心パニックになりながら思った。
ここはどこ?