異世界の魔法使い、カナチの場合
今回担当:金薙
「こら、待ちやがれ!」
森の中で一人の少年と一匹の狐が追いかけっこをしていた。
少年は森で活動がしやすい服装をしていて、手には短い杖が握られていた。
杖を持っているが別に足をくじいたわけでもないし、それなりの速度で狐を追い掛け回しているから健康体そのものだという事は簡単に理解できる。
「この森で銀色をした狐なんて見たことがないし、なによりこの森に慣れ親しんだ僕より速いなんて。只者じゃないはずだ」
銀色の狐は魔法を使う素振りもせずに、逃げ続けていた。
この世界には魔法が存在している。そんな事は赤ん坊でも知っているし、自然に生きる動物にだって日常的に使っている。
少年の手にある杖は単に魔法を扱うための物である。
「おかしい。一向に襲いかかってくる気配がない。もしかして、ハズレモノか?だったら尚の事好都合だぜ」
別に魔法を使わなくても牙や爪で攻撃できるはずの動物だが、歯向かってこないモノもいる。そういうのは総じて仲間はずれにされて、狩りを覚えることすらできずに放り出された存在として、ハズレモノと呼ばれている。
このハズレモノは一部の愛好家どころか世界中に需要があり、かなりの値段で取引をされている。
しかも色が銀とは誰も見たことがない。少年はレア物だと判断し、追いかけている。
「まさか、今日の飯の確保に来たらこんなのが引っかかったとは、僕幸運すぎるな」
狐は精一杯逃げていたが、不幸な事に脚を木の根っこに取られて転んでしまった。
「ふぅ、疲れさせやがって。こいつを売れば僕は一躍有名人。《銀を捕まえた者》カナチとして名前が売れちゃうな」
それを取らぬ狸の皮算用と人は言うが、少年は気にしない。
そして現在進行形で足元に形成されている穴にだって気付かない。
「さて、おとなしく捕まってくれ……よッ!?」
そして案の定その穴に落ちてしまう少年。予想以上に深かったようでなかなか底につかない。
身動きが取れないほど狭い空間。
光ははるか頭上にあり、もう夜に見える星の大きさほどでしかない。
「やばい、やばいやばいやばい!!」
あまりの恐怖に少年は気を失ってしまった。
ズダーン!
「うっ、つぅ......ここは……?」
地面に墜落と言っていいほどの速度で落ちた少年は、その衝撃で失っていた気を取り戻した。
いきなり底についたようだが、先ほどまでの狭い空間はどこかに消え去り、辺りは真っ暗だが見たことのない風景になっていた。
さらに下は土のはずなのにかなり固い。そして黒い。
いつも感じている偉大な自然を微かにしか感じない。
「どこだよ、ここ……」
少年は呆然としたまま動けなくなっていた。