創造神見習い、ミナの場合
今回担当:ミナ
――ゲート設定ミス事件が起こった後で、上層部に報告される直前の出来事。――
「いやもう妹がいて良かったよ本当。流石ミナだよ。この調子で頑張ってくれたまえ」
「私は何故こんなことをしているのか疑問に思ってきました」
数多に存在する世界には神様という存在がいる。案外ソレは日常に混ざっている物で、しかし気付かれることは無い。別に誤魔化しているわけではないのだが、誰も隣にいるコイツは神様かもしれない! なんて考えないからである。
むしろ考えているほうがおかしい。
しかし、もちろん世界がどうのこうの言っていれば神様とまではいかなくとも精神を疑われる。
なので神様はあまりそんなことは話さない。だが一見普通の会話に紛れ込んでいる。
「お兄ちゃん、言うつもりはなかったけどなんで見習いがこんなことしてるんですか少しは仕事してくださいよ!」
「俺、神様。しかも偉い創造神。お前、妹。創造神の見習い。見習いの内から仕事できるのはありがたいことです、うむり」
たとえばこの会話。明らかにおかしいところがあるだろうか?
……もちろん、ここで本当はありませんという風に述べたいが思い切りおかしい。
ハッキリ言うと、これが神様――創造神、そして見習いの会話である。
「私が九割やってますけどね、仕事」
「確認はこの俺がやってるじゃん」
「うるさいですよ馬面」
「絶対違う! それは無いぞ! この前も一人彼女を作ったばかりだ!」
「どうせ一週間以内に振られます。あ、電話来てますよお兄ちゃん。別れよう電話じゃないんですか?」
「クッソ……! 電話終わったら泣かせてやる……!!」
薄暗く、窓の無い室内には一台のデスクトップパソコンが机の上に置かれ、それ以外には特に特筆すべきことがない小さな部屋。机の前に座った少女――先程ミナと呼ばれた――は、うーんと背伸びをする。
うるさくしていた青年、自称創造神は部屋の外で電話に出ている。仕事をしないのだから入って欲しくないとミナは毎回思っているのだが。
「おい全然違うじゃねーか。ちょっとした報告じゃねえええかあああコノヤロッ!」
と、何もしないうちに創造神が帰ってきた。
「お兄ちゃん、うるさいです。報告とは?」
「あの子がいなくなったらもう付き合ってくれる子いないんだよ……なんでだ俺めっちゃ良いやつなのにぃ……」
「そういうネタはいいので報告を」
「ユリアちゃんマジくそかわ」
「お兄ちゃん、パソコンにロックのかけてある謎のフォルダがあります。名前は『ユリアたんprpr』ですので削除して宜しいでしょうか?」
「なんか管理会が見つけたんだけど、複数の世界に同時に謎のゲートができたんだってさ。見た目もなんか言ってたけど覚えてない。今のところ何かがあったわけじゃないから放ってるけど、解析班からは『宇宙』って世界にある、地球っていう星に繋がるゲートだって。ちょっくら入ってきてよ」
「すみません……。間違えてエンターキー押しちゃって消しちゃいました」
「きょおおおおおおおうううふううう!! 俺のユリアたんフォルダがあああッ!」
「復元してあげますからその場所への案内とまずゲートへ入るのはお兄ちゃんという事を約束してください」
「帰ってこれなかったらどうすんだよユリアたんとデートの約束が」
延々と続く創造神と見習い、もとい兄妹喧嘩。ついにキレかけの妹ミナが宣言した。
「すみませんお兄ちゃん。ロックフォルダ全消去しちゃいますね!」
「いや、お兄ちゃんもついて行ってあげよう!」
「本当ですか。でも消去し終わったので一人で行きますね!」
「待って! 俺のフォルダ! お願い復元してから行って! マジで!」
「お断りしますね」
机の前から離れようとしたミナはふと思う。場所はどこなのか。
もともと頼りにならない(決して使えないわけではない)兄なのはわかっていたものの、こうも情報をもらえないとは。仕方ないのでパソコンのキーボードを叩いて探す。
「あ、ごめんごめん。場所は近いよ」
「……はい?」
「近いというか、なんというか。この部屋もうゲートの中に飲み込まれてるから。安心して!」
「この部屋とお兄ちゃんはどうするんです?」
「俺が作った物だから自動的に消える。この俺も喋る人形だから安心して調査へ行ってくれたまえ。もう戻れないかもだけど!」
「じゃあ仕事は一人で頑張ってくれるんですね! 私は新天地で頑張りますので、お兄ちゃんもお元気で!」
笑顔のミナ。白目の創造神。消える部屋。
「俺、仕事やりたくねええええよおおおお!!」
兄の声を聴きながら、完璧に消えた部屋から落下していくミナ。
そこで意識が飛んでいった。