5
se.thi.po.hu
セ(未成熟な)・ティ(番のいない)・ポ(可愛い)・フ (娘)
これは万国共通の常識だが、番無き竜の娘をこの名称以外で呼んではいけない。見ることも、触れることも、重大な禁忌とされている。
「しかし、その竜族の女」
「王よ。セティポフと御呼びください」
「あー、セティポフは生きているのか?」
「王よ。保護されたセティポフは生存しており、現在は厳重に同族の手により手厚く守られております」
「そうか。会ってみたいものだが、無理だろうな」
「王よ。あなた様がどれ程優れ民に愛されていても、その願いは聞き届けられませぬ。竜族の反感を、怒りを買いかねませんゆえ」
「そうだろうな。分かっておるとも。しかし、彼女」
「王よ。セティポフと御呼びください」
「あー、セティポフは、さぞかし美しいのだろうな」
「王よ。セティポフの噂話はしてはいけませぬ。竜族の耳は風のごとく音を拾いまするゆえ」
「うむ。そうであろうな。しかし、余は、セティポフと呼ばれるものが我が国に降り立つなど初めてのことと覚えておるゆえに気になるのだ」
「……王よ。では、竜隊長にわたくしめが探りをいれて参りましょう。ですが、」
「うむ。竜隊長がなにも口にせぬなら、無理強いはせんで良いぞ、宰相よ」
小さな王は、普段は胸を張り難しい顔を心に決めた子供らしくない王様ですが この日ばかりは様子が違います。
なぜなら、小さな王が治めるこの『白国』内にて、ここ百年ほど世界基準で姿を消していたセティポフが発見されたとの報告を受けたためです。
小さな王様の少しばかり残っていた子供らしさがくすぐられ、珍しいことにわずかばかりの探求心も顔を覗かせました。
この為、小さな王様をいつもそばで見守ってきた宰相は少しだけ王を甘やかす事に決めました。
古くからある常識であり、破れば禁忌とはなりますが竜隊長にお伺いをたてるくらいならきっと神様もお許しになるだろう。それで、セティポフの情報がほんの一欠片でも手に入れば王も満足されるはず。王に過保護な宰相はそう思ったのです。
「宰相。セティポフは竜隊長と仲良くなれるだろうか」
「王よ。竜隊長は竜生経験はございますが聞くところによればあまりセティポフの扱いには不馴れな様子で御座います。けれどきっと、か弱きセティポフの力となってくれることでしょう」
小さな王は豪奢な執務室で重厚な椅子へ腰かけ、宰相のお話を聞きながら、いまだ見えぬセティポフと竜隊長の二人へ想いを巡らせるのでした。