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「あいよ!」
ドンッ!と目の前へ豪快に置かれた薬湯は、緑色で、ドロッとしていて、もくもくと苦そうな香りの湯気を立てている。
……飲みたくない。飲みたくないが、ちらりと目線を向ければ
「セティポフよ、決して旨くはなかろうが、今は身体の為に辛抱しておくれ」
自分は鳥だか豚の美味しそうなお肉を前にしながら、仕事仲間とワイワイ食事を囲っておいて……と文句を言いかけて、彼がまた私にスープを飲ませてくれようとしていることに気がつき、若干自分を恥じた。
「フープの口許を開けるが、良いか?」
ふーぷ?何のことかと一瞬考えて、あぁ、このポンチョかと気づく。小さくうなずきを返すと、彼は私の被るフープの顔部分に手を伸ばし、さっと背後を振り返った。
「お前たち、セティポフの顔を見てはならんぞ。視線を外すように。良いな」
ちらりと視線を向けると、彼らはそうとは分からないように此方を見ていた。若干一名、男の子なんかは身を乗り出して興味津々な様子。
「はっ!了解です」
生真面目そうな軍人さんは、さっと視線を前にもどして、さもなにもしていませんでしたって顔をしてる。
「当たり前じゃないか。そんな恥知らずなこと、誰がするってんだい?」
狐のお医者さんも、向けていた視線を湯が立つお料理に戻し、ナイフとフォークを手にさっさとお肉を食べ始めた。
「へいへい」
でも不良系軍人さんは返事を返した割には、視線を戻さないな。何だかんだと横目で私の顔辺りを見ていたが、生真面目そうな軍人さんに頭をグーで殴られて激しく呻いていた。残念な人だ。
「……はぁい」
少年は落ち込んでしまったらしい。うつむきつつ、もそもそと食事を始めた。
「あの、ごめんなさい」
何だか可哀想になって、申し訳なくて、小さな声で謝ったのだけど。
起こるどよめきと、彼の咳払い。
「ごっほん!あー、セティポフよ。竜族の女性は、淫らに他者へ声を聞かせてはならないのだ。解っておくれ」
……え。みだら。ミダラ。淫ら。え?淫ら?
「……」
「他に会話できる竜族の娘がいれば良いのだが、窮屈な思いをさせる。すまんの」
まぁ、元の世界にも国によって色んな考え方や決まりがあったわけだし、身体が変わった以上そこは受け入れるべき……受け入れるしかないよね。
小さく頷き、了承を伝えておく。
「うむ。解ってくれたか。さて、セティポフよ、フープを……」
大きな手。太い指。男の人の手が近づき、人差し指と親指で、そぅっと薄い布を捲っていく。口許が露になり、鼻の下辺りまで布を捲り終えると、布の端をどこかに固定したようで全く落ちてこない。
どうせなら顔全部出したかったな。何て思いつつ、ゆっくりと近づいてくるスプーンへ反射的に口を開けていた。……まずっ。
「セティポフよ、早く身体を治し、元気になるのだぞ」
次のスープをスプーンですくいながら、彼は優しく微笑む。
早くも食べさせてもらう行為に慣れ始めている自分に気づかされた。
「……」
(どうしよう)
優しくされて嬉しいのに、なんだか心がざわざわと波を立てて不安を掻き立てる。このままではいけない。早く身体を治さなければ……と。
久し振りの執筆なので、違和感や誤字脱字など有ればやんわりとご指摘頂けると助かります。宜しくお願いします。