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そのままべたべたに誉められつつ、まだ回復しきってはいないからと抱き上げられ部屋を出れば右に筋肉、左に眼鏡、正面にはふわふわしっぽの薬の人……と小さな男の子。
「たーいちょ。早く飯いきましょーよぉ!」
「おはようございます。竜隊長、……こほん、セティポフさま」
「おはよ、体調はどうだい?」
「ああぁあの!おはようございます!!セティポフさま、ぼく、ポッティです。宜しくお願いします!!」
「……」
「皆おはよう。さぁ、食堂へいこうかの」
(あー、すごい)
静かな室内を出たら、一気に賑やかになったなぉ。
それにしても、この人とお医者さん以外はみんな白いのね。
小さな男の子も、年長らしい筋肉さんも白。お国柄……なのかしら。
「たいちょ。なに食べます?俺はぽこぽこ鳥の丸焼き」
「私はチルチル子牛のクリーム煮で」
「あたしはおすすめ定食」
「ぼ、ぼく!」
「あんたはお子さま定食だよ」
「えっ!僕もう子供じゃありません!!お子さま定食なんて……」
「がははは、ポッティはお子さま定食かぁ~」
「懐かしいものですね。ガルド、あなたもそれにしたらよろしいのでは?」
「がはは……いや、おらぁ丸焼きで!」
(ぽこぽことか、チルチルとか、よくわからないけど鳴き声であってるかな?)
木製の廊下に響く大きな話し声に、他の宿泊客たちは迷惑していないだろうか?なんて、目の前のモノから視線をはずし現実逃避をする私。
この優しそうな人たちは、果たして私の味方に、なってくれるのだろうか?
しばらくはこの宿で療養を、と言ってくれたけど、そのあとはやっぱりさよならなのかな。それなら、早くギルドに生きたい。私が生き続けるためのすべを手にいれたい。ぬるま湯に使って、打ち捨てられるのは……それは嫌だな。
(あぁ、薬を飲ませてもらったときも変な感じだったけど……これはもしかして身体の感情に引きずられてるのかな)
「ん、セティポフよ。大事ないか?」
それにしても、この人はなんで私に優しくしてくれるんだろう。
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「まずは水だな」
「えっ、果実水の方が」
「いいや、弱ってるときにゃ慣れないもんは口にしないほうがいい。」
(いや、私は果実水とやらを飲んでみたいです)
話せないから意見もないように扱われるのが辛い。
一階に降りて宿の出入口右側にアーチ型の入り口があった。入ってみれば木製で味のある作りをした食堂があり、中には一枚板で誂えられた一人掛け用のカウンターテーブルと、それとは別に四人掛け用の四角いテーブルがイスとセットで十五くらいあって、その様子を見た感じあまり大きな宿ではないのかも知れなかった。
私たちは店側がわざわざ用意してくれていたらしい四人掛けテーブルを二つ繋げた広い空間を当たり前のように使い悠々と注文を開始した。
「医者として、セティポフの食事はあたしが決めさせてもらうよ」
(え)
「うむ。致し方ないな」
「しばらくは仕方ないでしょうねぇ」
「残念だったな!」
「セティポフさま。回復したら美味しい食べ物屋さんたくさん紹介しますね」
「そんじゃ!女将注文だ!ぽこぽこ鳥の丸焼きと、チルチル子牛のクリーム煮とおすすめ定食とお子さま定食」
「あと、薬草のスープ」
「あいよっ!」
奥の方から威勢の良い女の人の返事が響く。
(え。この流れ……ほんとに、私は薬草のスープだけなの?)
みんな楽しそうににこにこしてるけど、私は水と薬草のスープだけ。
現実的に訳の分からない薬を飲んで死にかけたんだから仕方がないのは理解できる。理解できるけど、納得はしたくない異世界での初めての食事だった。