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は。
と、瞼を閉じたまま、私は小さく息を吐いた。そうしてゆるりと瞼を震わせて、自分の周りに、部屋の中に誰も居ないことが分かると、なぜかとても安心した。
目覚めたら、現実に、日本に戻っているんじゃないか。なんて、ただの私の希望だけど。でもそうだったら良いのに瞼を持ち上げた先に見えたのは、眠りにつく前と同じ室内。
そう言えば、いつ眠りについたのか私には思い出せない。
なにか、忘れているようなそんな気もして、暖かな掛け布団の中で私は一人もぞもぞしていた。
(あの大きな男の人に薬を飲ませてもらって……、それからどうしたんだっけ)
「あー。……こえ、治ってる」
(身体も動くし、あの薬が効いたのかな)
こんこん。
凄くいいタイミングでノックが聞こえて、私は身体を震わせた。
「セティポフよ、儂だ。部屋へ入るが害はないぞ」
「……」
その人はやっぱり大きくて、がっしりしていて、なんだか傍にいると安心する薬を飲ませてくれた男の人だった。
その人はゆったりと部屋へ入り、私の横たわるベッドの横まで来ると置いてあった椅子に座らずに膝まずいて話しはじめた。
「さてセティポフよ。儂を覚えておるかな?」
(まさか、座ったら椅子が壊れたりするのかな)
身体の大きなその人を見つめ、私は答える。
「えっと、はい」
たった一言、聞かれたことに返事を返しただけなのに目の前にいた男の人は、なぜか顔を赤らめて喉の辺りをせわしなく撫で、私を見つめ返し
「……すまんの。儂はその声にまだ耐性がなくてのぉ、悪いが質問には頷くか首を降るか、そうしてくれんかね」
「……」
(え。しゃべっちゃダメなの?大体、セティポフとか、タイセイってなんなの?)
とは思いつつ、一応了承したつもりで小さくうなずく私。
男の人はまだ喉元辺りに手を置いたまま、私を見て申し訳なさそうに眉を下げ
「まこと、すまんの」
そう謝ってきたので、もう気にしていないと言いたかったけど言いつけを守り先程より深々と頷くに留めた。
でも、せっかく薬が効いて話せるようになったのに残念。
「セティポフよ、申し訳ないが日記を読ませてもらったのだ。儂らの考えでは、セティポフは竜族襲撃事件のおり親竜が死に卵の状態で誘拐されたのではないかと見ているのだが……」
ちらり。
私を見て一言、
「今がいつかわかるかの?」
(それが日時とかを指すなら、私にはわかりません)
そういう意味で首を降ったけれど。
返ってきたのは、残酷な言葉で。
「竜族襲撃事件は、今から百年以上前に起きた出来事での。現在は皆ちりじりに生活しとるのよ」
(じゃあ、やっぱりこの身体の持ち主は本当に天涯孤独なんだ……。早くギルド行かないと宿だい払えないんだけど。て言っても、私働けるのかな)
「まぁ、しばらくはこの宿で療養すると良いじゃろう。後のことはゆっくり相談に乗るでな。さ、このフープを被り食事をしに下へ行こうかの」
(ん?なに、この黒い布)
「着方はわかるかの?どれ、……ふむ。これでこの草花の輪を乗せれば」
それは真っ黒な大きな布だった。
真っ黒で、縁は綺麗な水色の刺繍で彩られた布。
それを頭からふわりと被り、良い位置に固定したらこれまた色彩鮮やかな何かの花や蔓で作られた輪っかを頭部に嵌めれば出来上がりらしい。
(でも、これじゃあ全身が真っ黒け。上手く目の位置だけ布地が薄くできてはいるけど、日本で言うポンチョの全身バージョンだわこれ。動きづらい)
「うむ。眠っておる合間に仕立てを急がせたかいもあるというものだの」
(えっ、仕立てたの?これ、どうりで髪とか鱗の色と同じだと思ったわー高そうだなぁ)