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廊下へ出れば国軍唯一の竜専門部隊隊員であるメイルディオンとバルドフェルドが待ち構えていた。
「それで、中の様子は?」
「ま、大丈夫だろうよ。たいちょーが一緒なんだぜ?」
バルドフェルドはなんの心配もないだろ?とでも続けたそうにニヤリと笑う。
「アンタはいつも気楽でいいね?竜隊長はセティポフへ甲斐甲斐しく薬を飲ませてるよ。わたしは追い出されたってわけさ」
軍医は呆れたように頭をふり、壁へ寄りかかった。
そんな彼女を見てメイルディオンは怪訝そうに眉を寄せ問いかける。
「追い出された?」
「どうも、手負いのセティポフだからか元々そうなのか警戒心が強いらしいね。それで?アンタラは用意できてんだろうね?」
「えぇ、もちろんです」
「わざわざひとっぱしりして隊舎から持ってきたんだぜ?」
「それは元々用意して置くはずのものですよ?当番のあなたが忘れたせいで走ることになったことをお忘れなく」
「あー相変わらずメイルディオンは手厳しいね。バルドフェルドはガキのまんま。この隊の良心は今頃王宮だし、全く今日は災難だよ」
まさかこの国へセティポフが落ちるなんて、これからどうなることやら……。番いか否か、あの年食った竜隊長に嫁を……とは私ら皆が願ってたこととは言え、あの調子じゃそんな空気になりそうもないね。
「せんせい、セティポフさまは大丈夫でしょうか?」
「ん、ポッティかい。まぁ、薬も飲ませたし大事にはならんだろうよ」
しかし、この子を連れてきたのはまずかったかね。弟子とは言え、ポッティは純粋な人間だし、第一級の箝口令が敷かれるだろうこの治療に幼いこの子を連れてきたりして後々尾を引かなきゃいいけど。
「それじゃあ、お元気になられますか?」
「いや、今のところ自分じゃ動けないし話すこともままならないようだったから……様子を見ないことにゃ何とも」
「……そうですか」
「ま、そう暗い顔するもんじゃないよ。あたしら医者はどんな時でも患者を不安にさせないためにも常に笑顔!」
「はいっ」
「んで、この宿借り切るにしても予算は大丈夫かい?」
「えぇ、私たちの部隊は基本的に年間予算を毎年持て余し気味だったので宿への支払いについても問題ないでしょう。ただ、現在宿泊中の客については追い出すわけにはいきませんからね」
「仮宿を紹介すっか?空いてる部屋は押さえねぇとな」
「えぇ。ひとまず予算は王宮へ走ったケイトが手続きをするとして、宿への交渉は我々が行います」
セティポフが動けるようになるまでは、もしくは療養先が決まるまではここの宿を借りきらないと余計な馬鹿者が紛れ込みそうだし。
全くこんなひとが入り乱れる大通り前の宿なんかに足止めされるなんて厄介だねぇ。
「ケイトリディさまは、お一人でだいじょうぶでしょうか?」
「あ?」
「なるほど、確かにケイトは頼りなく見えますからねぇ」
「ポッティ、あんたがケイトリディをどう見てるのかは分かったけど本人の前で口にするんじゃないよ」
まったく、この変人集団唯一の癒しをつついたりして傷つけたら、その背後には竜がいる。
知らず森を傷つけてエルフが出てくるようなもんだよ?
一年前だったね、一見派手で目立つ竜専門部隊は長いこと竜隊長にバルドフェルドとメイルディオンの三名のみだったのに、見た目平凡そうな一人の少年とも取れる青年が入隊して。
そう、見た感じ平凡そうなぽやぽやした子だからね。周りはみーんな、弱そうだとか、頼りないだとか、言いたい放題で今までつつく隙を与えなかった変人集団の弱点だと決めつけているけど。
あたしはそうは思わないね。
考えても見なよ、ケイトリディは竜隊長がバルドフェルドとメイルディオン以外には、はじめて部下として自分の下に付けた子だよ?普通に考えたら警戒するべきだろうよ。
何より、すでにバルドフェルドもメイルディオンも、なにより竜隊長が、ケイトリディを認めているわけだ。
あの子に何かあれば、今は人型を取ってのそのそしちゃいるが、竜隊長だって黙っちゃいないだろうさ。
さて、これからセティポフ関係で付き合いも長くなりそうだし、ポッティにはよくよく言い聞かせておかないといけないねぇ。
「あーあ、戦もないし毎日三食昼寝つきの良い仕事につけたと思ってたのに。今日からここに泊まり込みかい……忙しくなるねぇ」




