現実
担当:愛莉
「さっきまでいた場所――ユウコの住んでる町って、何ていうところ?」
「朝日町だけど」
知らない町だった。社会の地図帳を引っ張り出して、お互いの町を確認する。
すると隣の県であることが判明した。知らないわけだ。
「今から行ってみない? ユウコがどうしてるか見てみようよ」
さっきまでいた場所は夕方だったけど、今はまだ昼過ぎだし。隣の県とはいえ、電車で一時間程度だろう。
俺はボックスの他に財布と携帯を持ち、家を出た。自転車の後ろにユウコを乗せ、駅に向かう。
駅に着くと、ユウコの家の最寄り駅までの切符を買った。電車に乗って朝日町を目指す。
一時間ちょっとで電車を降りると、ユウコの案内で家に向かった。だが――歩いている途中、突然ユウコが頭を押さえてしゃがみ込んだ。
「どうしたの!?」
「頭が……痛い……」
「まさか、今現在にいるユウコに近付いたせいで……?」
考えながら、ユウコの隣にしゃがみ込む。
だがその瞬間、ユウコの姿がパッと消えてしまった。自分の目を疑い、「嘘だろ……」と呟く。
――と、そのとき後ろから声を掛けられた。振り返ったとき、またまた自分の目を疑った。そこに立っていたのはユウコだったのだ。
――いや、顔は間違いなくユウコだが、服装はさっきまでと違っていた。学校の制服を着ている。
「どうかしたの? 大丈夫?」
「ユウコこそ、どうしたんだよ!」
「どうして私の名前を知ってるの?」
「は? さっきまで一緒にいたじゃん」
「……私、今まで学校にいたんだけど」
もしかして――今現在のユウコが接近したから、過去から来たユウコは自動的に元の場所へ帰ったのか?
ユウコ自体の時空移動は、無かったことになっている?
手の中のボックスを眺めた。数字が表示されるはずの場所に「error」と出ていた。ボタンを押しても反応がない。
歪みが生じたせいで、ボックスは壊れてしまったのかもしれない。
俺は今度こそ、この不思議なボックスを処分することにした。
消える瞬間、頭痛を訴えていたユウコ。今現在のユウコが元気そうなところを見ると、きっと無事なんだろう。
家に帰ったあと、もしかしたら全て夢だったのかもしれないと思った。
でも――ユウコが買ってくれた寒さをしのぐためのウインドブレーカーは、俺の手元に今でも残っている。
(了)