第13話 さけるぷぴら
むっちゅっちゅーで、リンゴーン。
なんて幸せな響き。
あっついキッスを披露したジェイも。
あっついキッスを披露された女王様や観客達も。
大いなる多幸感に身を置いていた。
その中で。前日にもキッスを見られていたため、頭が少し冷静だったかもしれない。
ジェイのあっつくてしっつこいキッスを受けるミチルには見えてしまった。
お城の大ホール。
ミチルには何のためにあるかがわからない、中二階的なバルコニー部分。
ジェイが背を向けている後方部、人影が蠢いた。
それは身を屈めた体勢で、器用に弓を引く。
つがえた矢がギラリと光り、ジェイの背中を貫こうとしている。
ミチルはそう直感した。
「……ぷはっ、ジェイ!」
ジェイの腕の中で身を捩り、唇を離してミチルは叫ぶ。
「避けてッ!」
その一言で意思の疎通は完璧。ジェイは瞬時にミチルを抱きしめて身を屈めた。
「ミチル!」
その大きな背中で、ミチルに覆い被さって。
違う!
狙われているのはジェイの方でしょうが!
暗殺者に背中を晒しているのは変わらないよ!
ミチルは心の中でつっこんだ。
だがジェイの思考はミチルの安全のみ。
自分が避ければ、矢はミチルに当たる。それだけはあってはならない。
ジェイは、つい今、女王からミチルを託されたばかりなのだから。
「ふあああ……ッ!」
ギリッと、さらに弓を引く音が聞こえた気がした。
だが、ジェイは頑なにミチルを守り続けている。
ミチルは焦る頭で懸命に考えた。
ジェイはいつだってオレを守ってくれる。
それなら、オレがジェイを守るんだ!
守れ!
大切な最愛を!!
「さける、ぷぴらぁ!!」
ミチルは思わずその言葉を唱えていた。
呪文ではない事は知っている。だけど、たまにオレのことをそうやって呼ぶ者がいた。
オレはミチル。
プルケリマのミチル。
得意技は「奇跡の行使」。
起こしてやるよ、何度でも。
大好きなイケメンのためならば!
サケル・プピラ!
キーン!!
ミチルが張った蒼いバリヤーが最初の矢を弾く。
「……っ!」
輝かしい蒼きテントの中で、ジェイは驚きに目を丸くしていた。
「ふおおお……でけたぁああ」
ミチルは自分の力に大興奮。
これを見たのはラーウスに転移した直後以来である。
「……チッ!」
バルコニーの暗殺者が舌打ちをしたような気がした。
ミチルのバリヤーは矢を一度防いだだけで、溶けるように消え失せる。
「ジェイ、早く逃げないと!」
ミチルは即座に立ち上がり、驚いたままのジェイにそう訴える。
「あ、ああ……」
動揺しているため、ジェイの動きは鈍かった。
その隙に。
弓の達人は、二矢準備している。すぐに追撃が飛んで来るのだ。
今度こそジェイめがけて二の矢が——
「はあい、そこまでです」
バルコニー部分、左右にみっちりと人が押し寄せていた。
暗殺者の退路は完全に塞がれている。
その体を魔法でもって押さえつけて、クローバーが笑っていた。
「すみませんね。計画通りに動いてくれてありがとう」
「クソ……ッ!」
英雄の命を狙った暗殺者・サポニンはこうしてあっさり捕縛された。
「えっ、ナニ? もう、終わった?」
ミチルがキョロキョロしてる間に、女王様は衛兵達に守られて退出。
次には入口からネモフィラ将軍が意気揚々と登場する。
「御列席の皆様、大変申し訳ありません! 安全な場所までご案内いたします、どうぞお静かに!」
何が起こったのかわかっていない観客達は、動揺やら仰天やらしつつ、兵士達に数人ずつ誘導されてホールを出て行った。
「いやあー、驚きました。さすがミチル様ですねっ!」
パチパチと手を叩きながらクローバーが降りてくる。
「あっ、サポニン君はとりあえず勾留しておきますので、大丈夫ですよお」
「……」
このクソ魔ジジイ(小)め、とミチルはクローバーをジトッと睨む。
何が「さすがミチル様」だ。最初の矢はまんまと放たれてしまったじゃないか。
どうやってジェイを守るつもりだったんだ。言い訳次第じゃあ、ただじゃおかないぞ。
「いやあ、私の防御魔法を遥かに凌ぐ堅牢魔障壁。お見事でございます」
「ん? ボーギョマホー?」
「いつの間に、そのようなものをかけたのですか?」
ミチルがきょとんとしている隙に、ようやく落ち着いたのか、ジェイがそう尋ねた。
クローバーはウフフと笑って短く答える。
「『避けて』の直後くらいですかねえ」
つまり、クローバーはオレ達を守る意思はあった、と。
「まあ、ミチル様の魔障壁によって私のは霧散してしまいましたがね。いやーほんと、すごい。カエルレウム魔法顧問の術を圧倒されるとは、いささかプライドが傷つきますなあ」
お、お、おだててもダメなんだからねっ!
ミチルはちょっと鼻が膨らみかけたが、クローバーの雑で報連相のない作戦に辟易していた。
いくら魔法に自信があっても、防げたとしても、オレ達は的にされたんだ! その恨みは大きい。
「顧問殿、して大臣ブッドレアは何処に?」
ミチルがジェイの後ろでクローバーにあっかんべーしていると、ネモフィラ将軍が会話に割って入った。
「ああ、そうでした。彼なら執務室に引きこもってもらっていますよ。部屋の出入り口は兵士で包囲しています」
「——承知した」
将軍は短く頷くと、片手に持っていた大剣をジェイに差し出す。
「ジェイ・アルバトロス」
そして凛々しい低音ボイスでジェイの名を呼んだ。
「はっ」
ジェイは己の武器を受け取り、将軍に敬礼を示す。
それを受けて、将軍からは最後の命令が下された。
「ついて来い。一連の首謀者、大臣ブッドレアを逮捕する」
「承知いたしました!」
大将軍と、蒼き戦士の共演である! 胸熱!!
「……」
その側で、ミチルは別の思考を巡らせていた。
ミチルが張った魔障壁が過去に発動したのは二度。
森の中でベスティアに遭遇した時。それからベスティア化したルークに会った時。
ミチルの力はベスティアにこそ効く。
つまり、今回の矢を防げたのも同じ理由かもしれない。
足元に転がった、サポニンの矢。
その矢尻。
知っているような感じがする。
「あの矢。ベスティアかもしれない……」




