9. 王子の呪い
第一王子との面会は冬期休暇に入ってすぐ行うことになった。リュカたちは北の塔の従者にも魔王崇拝教の関係者が紛れているのではないかと疑っていた。私たちは従者たちにその素性が分からないように神殿関係者を装って、北の塔に入ることにした。
「殿下とアラン様。これをお守りに身に着けておいてください。呪い返しのペンダントです。」
「ありがとう。」
まず神官の装束に身を包み、フードを目深にかぶる。さらにその上から幻影をかけた。これでよっぽど疑い深く見なければ、私たちだとは気づかないはずだ。入り口で門番が制止した。
「殿下のお清めに参りました。」
そう言って、アランが北の塔の入場許可証を渡す。
「お勤め、お疲れ様です。どうぞ中へ。」
門番は何も疑うことなく私たちを塔の中に通した。
「ほぼ素通りだな。もう少し危機感を持ってもらいたいが。」
「入場証を見せましたし、この格好をしていて疑うことはないでしょう。それにアレクサンドル殿下の邪気払いも間隔が空いているんじゃないですか。この時期、神殿は祭事が多いですし。」
不服そうなリュカを諭すようにアランが言った。
もともと北の塔は罪を犯した王族を幽閉するための塔。王子の居室は塔のてっぺんだ。すれ違う北の塔の従者たちは、皆顔に黒いベールをかけて仕事をしている。これは呪い除けの一種だ。
「ここだ。」
階段の先には重そうな金属製のドアがあった。ノックをし、扉を開ける。ベッドの上には、骨と皮だけにやせ細った金髪の青年が横たわっていた。
「……まあ。」
「この部屋に入るのは一年ぶりだが、相変わらずすごい邪気だ。気分が悪くなったらすぐに言ってくれ。実は以前にも闇魔法の術師に解呪を頼んだことがあるのだが、皆、解呪をしているうちに倒れてしまった。僕やアランは光属性だから呪いには耐性がある。」
ミイラ取りがミイラになる。闇属性の魔法使いだからと言って呪いや邪気に耐性がある訳ではない。解呪しているうちに呪いにかかってしまったと言うのはよく聞く話だ。
「分かりました。」
まずは呪いを解析していく。なるほど。これは一つの呪いではない。複数の呪いが複雑に絡み合っている。
「Maledictionem solve!――解呪!」
他人に"移りやすい"と言われている、呪いの対象が漠然した呪いを優先的に解いているが、なかなかその全貌が見えない。
「どうだ、何か分かったか?」
「今解呪を進めています。てっきり、構造が難しい呪いがかけられているのかと思いましたが、今見えているものは単純なものが多いです。」
長くこの部屋にいては邪気にやられる。解呪速度を上げるために複数の魔法陣を同時に操る。
「それにしても数が多い。種類も。――ん?これ、闇魔法の術者以外の呪いも混ざっていますよ。」
「闇魔法の術者以外?」
「一番原始的な呪い、代償型呪詛には魔力さえあればかけることができる呪いもあるんです。」
「まさか、兄上に呪いをかけているのは一人ではないと言うことか?」
「――そうですね。そう思います。ん?これは魔物の呪い?」
やっと構造が掴めた。この呪いの複合体、どうやら中心部に魔物の呪いがあり、全ての呪いを束ねている。どうにか人がかけたと思われる呪いは概ね解けた。それでもまだ第一王子は、魔物の呪いでがんじがらめになっている。
「……この魔物の呪い、何かに似ているのよね。」
既視感のある呪いだが……。急いで解析を進めるが、幾重にも重なった呪いを解く糸口が見つからない。邪気で気持ち悪くなってきた。そろそろ魔力も限界だ。
「むむ。私の力ではこれ以上は……。」
「君でも難しいのか。」
「……力及ばずで、恐縮です。」
無理は良くない。解析のための魔法陣を閉じた時だった。私の心の中で優しそうな男性の声が響いた。
『君がレナ嬢か。かわいそうな子だ。』
その声は、確かにそう言った。
「え?殿下、アラン様、何か言いました?」
「いや、僕たちは何も言っていないが。」
そして不測の事態が起こった。
「きゃっ!呪い、避けて!」
突然、第一王子から黒い邪気が放たれて、リュカめがけて飛んできたのだ。呪い返しの展開が追い付かない。リュカに渡した呪い返しのペンダントがパリンと割れた。
「今のはなんだ。兄上の呪いが私に移ったのか!?」
「厳密に言うと違います。ですが、今は逃げましょう。」
私たちは走って、第一王子の居室を後にした。
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