7. 呪い返し
「つまり君は僕の婚約者になって、公開処刑されるという"夢"を見たから、闇魔法を使えることを隠して、領地に籠っていたってこと?」
コクリと頷くと、リュカ王子は眉間にしわを寄せ、溜息をついた。『前世、この世界のことを漫画で読みました』なんて言っても通じないだろうと思って、あえて夢と説明したけれど、さすがに言い訳っぽく聞こえたか。冷や汗をハンカチで拭った。
「ええ、何度も"夢"で見て。これは何かの啓示ではないかと。」
「それで、なぜあの別荘に籠っていたの?」
「スクレの別荘には、闇魔法の大家として知られた祖父の書斎兼研究室があります。祖父が残した文献を読み解けば、あの夢の正体も分かるかと思い、空気がきれいな土地で療養がしたいと家族を説得しました。」
とっさに思いついた言い訳を告げると、リュカ王子は「ふむ」と小さく頷いた。
「セザール・オランジュ卿は闇魔法に関するありとあらゆる書物を集め、自身でも闇魔法を研究していたと聞く。書物から闇魔法を学び、覚えた術を裏山で試していたということか?」
「ええ、そうですね。」
リュカ王子ににらまれて、ビクっとした。実際は裏山で"呪い返し"の改良実験をしていた。
「何かやましいことがあるのか?」
「……。」
少し考えて、これもいい機会だと思った。"呪い返し"に関しては、匿名で外に研究成果を公表することも考えていた。私は術式の原理から、祖父の原案、その改良について、リュカに丁寧に説明した。リュカは闇魔法のことを知らないはずなのに、目を輝かせて話を聞いていた。さっきまでの容疑者扱いが嘘みたいだ。
「つまり、この紋を入れたことで、少ない魔力量で跳ね返すことができるようになったということか。」
「おっしゃる通りです。」
今まで闇魔法や呪い返しのことを誰かに話したことはなかった。リュカが楽しそうに自分の話を聞いてくれるのがうれしくて、つい話し過ぎてしまう。
「この魔力量なら、魔石に魔法を込めることもできるんじゃないか。」
「お察しがいい。既に実証実験も済んでます。ただどんなにいい魔石を使っても、呪いを返すと衝撃で一回で割れてしまうんですよね。」
たまたま上着のポケットに入れていた、試作品の魔石を渡す。渡された魔石をまじまじと見ながらリュカがつぶやく。
「なるほど。等級の低い魔石も使えるが、再利用ができないということか。」
「ええ、そうですわ。」
「素晴らしい……。本当に素晴らしい!なぜこの研究成果を今まで黙っていたんだ。」
そして、何かに気づいたように、リュカが目を見開いた。
「――まさか、バジリスクも君が。」
「そうです。私がこの呪い返しで仕留めました。あのバジリスクも自分が放った呪いを返されて、石化するとは思わなかったでしょうね。」
魔物が放つ呪いは人間の考える呪いとは根本構造が違う。現代魔法学ではその防御や解呪が難しい呪いだ。ルブタン教授は闇魔法の権威と聞くが、少なくともあの様子ではバジリスクは彼の手に負えるものではなかった。
「……つまり、君はわざとバジリスクと眼を合わせて、呪いを発動させたということか?一瞬でも術の展開が遅かったら、石になっていたんだぞ!」
ん、私怒られている?なんで?でもリュカが、私の心配して言っているのは分かった。
「術式の展開と発動の速さには自信がありますし、あのまま放置していたら、何人"石"になっていたか分からないので。」
「君に対する疑いが全て消えた訳ではない。とはいえ、一度ならず、二度も君に助けられていたとは。――ありがとう。ただ無理はしないで欲しい。肝が冷える。」
「いえ、お礼なんて別に。私にできる最善をしたまでです。ただ、バジリスクの出現は少し気になりました。あの魔法陣、一瞬ですが私も見ました。あれを扱える者はごく一部かと。――今回の一件、もしかして魔王絡みでしょうか?」




