6. 疑惑
放課後、仕方なく生徒会室に向かう。突然の処刑フラグに少し動揺していた。初めて見る生徒会室の扉は、他の教室より豪奢だ。二回ノックをすると中から声が聞こえた。
「入って。」
生徒会室の中では、リュカとアランが待っていた。さすがヒーロー、キラキラした金髪がまぶしい。
「失礼致します。オランジュ侯爵家のレナと申します。」
優雅にカーテシーで挨拶をする。
「楽にして。そちらにどうぞ。」
言われるがまま、ソファに腰掛ける。アランが紅茶とお茶請けを出してくれた。
「ありがとうございます。殿下、アラン様。このフィナンシェ、美味しいですわね。」
少し礼儀に欠くかと思ったが、緊張をほぐすために茶菓子に手をつける。そういえば転生前より、甘いものを美味しいと感じるようになった。魔力の錬成には糖分が必要なのかもしれない。少しの沈黙の後、リュカが口火を切った。
「僕はまどろっこしいのは嫌いなんだ。レナ嬢、単刀直入に聞く。バジリスクが現れた時、魔法陣が開いたという目撃証言がある。どうしてバジリスクが校庭に現れたのか。君は何か知っているかい?」
え、もしかして私が疑われている?私がバジリスクを倒したのに。できる限り気持ちを落ち着けて答えた。
「どういうお考えがあって殿下が私にそんなことをお聞きになるのか存じ上げませんが、あの時は私は友人のバイヤール伯爵令嬢とペアで魔法実技の実習を受けていました。私に不審なところがなかったことは彼女が証言してくれるはずです。」
「そうか、分かった。では彼女にも確認を取る。だがしかし、闇魔法には幻影という人を惑わす術もあると聞く。君の主属性は闇魔法だよね。どうしてそれを隠している?」
「私の主属性は炎です。そう魔力登録されているはずです。」
「ごまかしたって無駄だ。君は闇魔法の使い手だ。それも強力な。」
「何を根拠にそんなことをおっしゃるんです?」
「――そうか君は覚えていないのか。あの時、君は頑なに名乗らなかったけど、女性に守られたのはあれが最初で最後だ。よく覚えている。」
女性に守られた。――ふと十一歳の時、スクレ湖で出会った少年が思い浮かぶ。あの"リュック"と名乗った少年は私より幼く見えた。まさか"リュック"がリュカ殿下?でも、今のリュカは私より頭一つ分背が高い。顔立ちだって、あのあどけなさはなく、精悍そのものだ。
「君には確か、"リュック"と名乗ったかな?あの時は僕もお忍びで本名を名乗れなくてね。」
「……リュック!?あの少年がリュカ殿下!?」
「ああ。でも君も名乗らなかったから、お互い様だけどね。」
あれだけ、避けていたつもりの"婚約者"リュカ王子と既に接触していたとは。これはまさか物語の強制力なのか。背筋にぞくりと寒気が走る。
「あの後、君のことを調べさせてもらったよ。君が入学時の魔力検査で、幻影を使って結果をごまかしたことも把握済みだ。」
うう、形勢が悪い。――そうだ、逃げよう。
「すみません。私は幼い時から身体が弱くて。今日も朝からお腹の調子が悪いんです。では、本日は失礼します……。」
「フィナンシェ三つも食べて、お腹が痛い?都合が悪くなったから逃げるの?昔、自分で言ってたじゃない。『どうして病弱な令嬢が森で魔物を狩っていると思ったんですか?』って。僕の目にはとても君は病弱には見えない。」
「ひぃ。」
しまった。三つも食べたっけ?!おいしかったからつい食べ過ぎた。
「ねえ、家族に言われてあの別荘に籠っていたの?それとも幻影の類で周りをだまして自らあそこに籠っていたの?」
リュカの追及が止まらない。冷や汗がどっと噴き出る。
「正直なことを言えば、僕は君のことを命の恩人として感謝している。でもそれ以上に、君のことを疑っている。ワイアームを一瞬で服従させるほどの闇の術師だ。その君がどうして、炎属性と偽装していたのか。貴族令嬢らしい社交をせずに、あの森で何をしていたのか。なぜ校庭にバジリスクが現れたのか。包み隠さず、話してくれないか。」
青い瞳がこちらをじっと見つめる。ああ、もう幻影を使って逃げだしたい。でも無理だ。幻影はとても有効な術だが、それは相手が気づいていない時に限る。今、目の前で使ったら、すぐにリュカは見破るだろう。
どうしてあの時、ワイアームを倒した後に、忘却魔法をかけなかったのか。子どもだと思って完全に油断していた。仕方ない。一か八か。私はことの経緯を話してみることにした。




