5. 不穏
結局、なぜバジリスクが校庭に現れたのかは不明、校庭にいた全員が目をつぶっていたせいで、討伐の決定打も分からないまま。例の女子生徒は"ショック"でその場の記憶を失っていた。なぜかルブタン教授がその場を収めたことになり、この一件は片づけられた。
ランチを食べに友人たちとカフェテリアに向かう。カフェテリアは校庭に面しており、窓からは石になったバジリスクが見える。
「バジリスク、怖かったです~。リュカ殿下たちがいらっしゃる時で本当に良かった。」
「そうですわね。でもルブタン教授はどうやってバジリスクを石にしたんでしょう?普通はバジリスクに睨まれた人間が呪われて石になるんですよね?」
「ルブタン教授自身もよく分からないって、おっしゃっているそうよ。」
「――あらそう。」
「レナ様はどうしてそんなに落ち着いてらっしゃるんですか?もう恐ろしくて。ねぇ~?」
「ええ!私、あんな大きな魔物を初めて見ましたわ。とても怖かった。」
話題は何であれ、カフェテリアに女子生徒が集まると騒がしいものだ。私は誰があのバジリスクを召喚したかの方が気になっていた。空にばっくり開いた魔法陣。あれは一体何だったのだろうか。ぼーっと窓の外を見ていると、ガタイのいい黒髪短髪の青年がまっすぐ私たちのテーブル近づいてきた。
「君がオランジュ侯爵家のレナ嬢だね。私はリュカ殿下の乳兄弟のアラン・オーブリーだ。殿下が君と話がしたいと言っている。今日の放課後、生徒会室に来てもらえないか。」
ぞくりと背筋に寒気が走った。今まで目立たずに過ごしてきたはずだ。最大の要注意人物が私に何の用だと言うのだ。
「……私は殿下と何の面識もございませんが、どういう風の吹き回しでしょう?」
「それは俺に聞かれても困る。とにかく、今日の放課後、頼む。」
「……分かりました。」
少し不服そうに私が答えると、アランは仏頂面のまま去って行った。
「レナ様の美しさにリュカ殿下がお気づきになったんですよ!」
「まあ!」
一緒にランチを食べていた女子たちが騒ぐ。
「あなた方、魔王を倒したらリュカ殿下とオレリア様が婚約すると言ってなかったかしら?」
「――でも。オレリア様って少し、お高く留まっているというか。」
「そうね。それに私たちみたいな下級貴族とは気安くお話くださらないから。」
「元は私たちと同じ子爵家の娘なのにね。」
「それに聖職者と王族が結婚なんて聞いたことないですよ。レナ様みたいな分け隔てのない方が王子妃になられた方が、臣下としてはうれしいです。」
「あら、私はこの通り、病弱で魔力量も少ないから王子妃にはなれないわよ。」
「そんなぁ。」
聖女・オレリアはもともと子爵家の令嬢だが、神殿で聖女の才を見出されて、ジュベール公爵家に引き取られた。原作のオレリアはリュカにその才能を認められて、いつもうれしそうに彼を支えている印象だったが、モブたちから見るとまたその印象が異なるようで、少し意外に映った。




