3. 入学
それから三年、私は"呪い返し"を研究し続け、遂に術を完成させた。改良によって最小限の魔力で展開でき、魔石に魔法を込めることも可能になった。これで闇魔法が使えない者でも一度は呪いをはじくことができる。
「歴史的な発見だわ。世界に発表したい。でも……。」
実はこれだけ領地に引きこもっていても、私の処刑フラグはまだ完全に消えていない。なぜか第二王子・リュカの婚約者が決まっていない。闇魔法が使える令嬢なんて他にいくらでもいるのに。
原作通り魔王は復活し、世界中で魔物が増えている。きっとこの魔法は人々の役に立つはず。匿名で公表することも考えたが、やはりリスクを取るのが心配だった。家族にも闇魔法が使えることを偽り、田舎に籠ってきたのに、ここでしくじる訳にはいかない。私は泣く泣くその公表を見送ることにした。
***
「私のかわいいレナちゃん。あなたも来年十五になるのだから、王都に来てシャルルお兄様と一緒にミステール魔法学園に通うのよ。」
転生した私には二人の兄がいる。長兄はエルネスト、この家の嫡男。四歳年上だ。次兄はシャルル、二歳年上。兄妹揃って銀髪に紫の瞳で目立つ容姿をしている。
ただ容姿は似ていても性格が真逆な兄たちは顔を合わせるとすぐに喧嘩を始める。以前スクレの別荘に来た時も、あまりにも騒がしいので二人とも屋敷から追い出してやった。それを根に持っているらしく、兄妹仲もすこぶる悪い。
「お母様、体調がすぐれないので、私はここスクレにいたいです。ケホケホ。」
「あら、最近はだいぶ良さそうだと、お医者様もおっしゃっていたわよ。」
迂闊だった。診察の時くらい、顔色を悪く見せる幻影をかけておけばよかった。
「それに体調が悪い日は休めばいいの。あなた、田舎に籠りっぱなしだから、同年代のお友達がいないでしょう?私ね、もう心配で、心配で。それに――あなたの婚約者もそろそろ決めないとね。」
マジか。貴族令嬢たるもの政略結婚と社交は避けては通れないということか。処刑フラグ回避にはなるべくリュカたちとの接点を避けるのが一番なんだけど。
「とにかくミステール魔法学園には入学してもらいますからね。うふふ~。」
結局私は、母に押し切られ、ミステール魔法学園に入学することになった。
***
「わあ、漫画のイラスト通りだ。」
スカイブルーのブレザー、淡いピンク色のチェック柄のスカート。前世から憧れていたあの制服。それに身を包むと鏡の中に『光と陰のアンビバレンス』でずっとずっと大好きだった"レナ・オランジュ"がいた。
こんな容姿、こんな才能、学園内で目立たない訳がない。
「まずは入学式を休んで、魔力測定も幻影を使って中堅クラスに入る。生徒会や目立つ集団には近寄らない。――それと闇魔法は極力使わない。」
今思えば、原作のレナは魔王の手先になって、王族に呪いをかけたと断罪されていたけれど、その罪状に関してはいくつか疑問点がある。もしかしたら、あれは冤罪だったのかもしれない。
この世界には、呪いと言えば闇魔法という固定概念がある。逆説的に言えば、闇魔法の適性が無ければ、王族の呪いの犯人扱いはされない。私の目標は処刑回避。何事もなく学園生活をやり過ごしたい。
作戦は概ね上手くいった。努力家なレナは原作で常に首席だったけど、私は魔力検査を幻影でごまかし、筆記も手を抜き、真ん中のクラスに入ることができた。
もちろん漫画に出てきたような目立つ生徒たちは一番上のクラスだ。真ん中のクラスのクラスメイトはいわゆるモブ。深窓の侯爵令嬢ということで、伯爵令嬢、子爵令嬢が集まって、ちやほやしてくれた。噂好きな彼女たちから、この世界の知らないことをたくさん教えてもらった。
「ふーん。魔王崇拝教の人たちが、魔王を蘇らせて、魔物が増えている。王家にも魔王崇拝教が入り込んで王族に呪いをかけ、その転覆を企んでいるっていうことですか?」
「しっ!レナ様、声が大きいです!」
「あら、ごめんなさい。……それで光の剣に選ばれし第二王子・リュカ殿下が光の勇者として、打倒魔王に立ち上がった。」
「リュカ殿下と聖女のオレリア様はまだ学生だというのに遠征でたくさん魔物を討伐されているんです。」
聖女というのは、聖魔力を発現した女性だ。神殿には男性の神官もいるが、聖魔力を使った浄化や治癒はできない。
「ずっと領地に籠っていたから、そんな話全然知らなかったわ。でも魔王はどこに潜んでいるのかしら?」
「さあ?そういえば、リュカ殿下とオレリア様は恋仲なんて噂もあるんですよ。聖女は結婚すると力を失うと伝承されているので、魔王を倒したらプロポーズするんじゃないかって、もっぱらの噂です。」
「あら、素敵ね。」
漫画の原作でも、リュカとオレリアはそんな雰囲気だった。本来の婚約者である悪役令嬢・レナを差し置いて。これも当然の流れだろう。ただ少し物語の進みが早いような気がした。リュカが入学当初から遠征に出ているという描写は原作にはなかった。




