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悪役令嬢ですが、呪ってません!~断罪回避のため闇魔法を隠していたら、王子に正体がバレました~  作者: 志熊みゅう


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29. 告白

 リュカは俯いたまま、しばらく黙っていた。時間が流れるのがとてつもなく遅く感じる。おもむろにリュカが口を開いた。


「――君はやっぱり聡いな。巻き戻す前の記憶が全て戻ったのはつい最近だ。スクレで君と出会ってから、学園に入学した君と話すうちに、少しずつ断片的な記憶が戻るようになっていた。そして――君が魔王に憑りつかれそうになって、全ての記憶が戻った。」


 リュカはため息をついた。


「時を戻す前、僕は決して許されないことをした。まず君に謝りたい。すまなかった。その上で、愚かな男の一度目の人生を聞いてもらってもいいか?」


「ええ。」


 私はごくりと唾を飲んだ。


「一度目の人生で、僕と君は婚約者だった。一度目の人生で、君は最後まで僕の味方でいてくれた。ジュベール公爵家の裏の顔にも気づいて、何度もオレリア嬢との関係に苦言を呈してくれた。」


 リュカの目に大粒の涙があふれ出す。


「オレリア嬢は、筆頭聖女だが、公爵家の養女で不安定な立場だ。僕を籠絡するために手段を選ばなかった。彼女は僕の正統な婚約者である君から嫌がらせを受けていると何度も報告してきた。今考えれば、そうやって僕の気を引こうとしていたんだ。そしてある日、オレリア嬢とジュベール公爵は、王族の呪いは君が元凶だと言ってきた。北の塔に出入りし、呪いをかけているのを従者が見た、と。ちょうど兄上が呪いに倒れたのは、一度目の人生で君と婚約したころだった。だから、僕は君を捕らえた。君は兄上の呪いを解こうとして、解呪の呪文を試していたと言った。」


「それで私を処刑したんですか?」


「……ああ、その通りだ。君は処刑の間際『私は呪っていません!信じてください』と言った。でも僕は君から目を逸らした。」


「私を処刑した後は、どうなったんですか?」


「……すぐに君の処刑は間違いだと気づいた。魔王が復活したんだ。メルシエ辺境伯家の長男を依り代にして。」


 メルシエ辺境伯家……。王家所縁の名家だけど、当主に不幸があって、ジュベール公爵家が後ろ盾になったって聞いたっけ。


「魔王は復活後、すぐに陛下を殺めて、王権を奪い取った。魔王とジュベール公爵たちの悪政が始まり、文字通り"暗黒時代"だったよ。」


「リュカ殿下はどうしたんですか?」


「僕はとにかく逃げたよ。光の勇者である僕だけが希望だと言って、皆が逃がしてくれたんだ。その時、時の禁書を何冊か持ち出した。」


「時の禁書?」


 なるほど、魔王がどうして自分も被害者だと言っていたのか、見えてきた。


「光の剣に魔王を封印できても、僕が大切だったものは、何も戻ってこないから。だから時を戻したいと思った。」


「時に関する魔術――特に巻き戻しのように効果範囲が広いものが、どうして禁術扱いされているのか、分かっていたんですか?」


「もちろん。でも、あの真っ暗な世界で、もう一度レナに会いたいと思ったんだ。自分で処刑したのに馬鹿だよな。やり直して、今度こそレナと生きたいと、心の底から思った。」


「――魔王が言っていたことなので、本当か分かりませんが、あの時の巻き戻しで、レナ・オランジュの魂は変質したそうです。だから今の私はレナ・オランジュであって、レナ・オランジュではない。」


「レナ・オランジュであって、レナ・オランジュではない?」


「二つの魂が融合した、と魔王は言っていましたね。」


 私は魔王と邂逅後、自分という存在がよく分からなくなっていた。今、自分が感じていることも誰の感情で誰の意思なのか。リュカはじっと私の目を見つめた。


「ううん。レナはレナだよ。興味があることにはまってその他のことがおろそかになるところも、口下手なところも、それに甘いものに目がないところも。でも、この二度目の人生では狂おしいほど君のことを愛しいと思うようになった。以前の僕は、君が傍にいるのが当たり前になっていたんだ。」


 レナはレナ。その言葉が妙にしっくり来た。魔王の話では、私たちの魂は深く共鳴して融合した。もう引きはがすことはできない。ならば、今の自分の思いを『本条玲奈』か『レナ・オランジュ』か、分類すること自体が無意味に思えた。


「僕は一度目の人生で取り返しのつかないことをした。それに社交界が嫌いな君は、僕から離れて生きた方が幸せかもしれない。だから何度も思いとどまった。――だけど、僕はどうしても君を諦められないんだ!」


 一度自分を殺した相手。――でも、リュカは禁術を冒してまで私と共に生きる人生を望んだ。私が魔王になびかず、人として生きたいと思えたのも、彼のまっすぐな呼びかけのおかげだ。一拍置いて、私はリュカに告げた。


「今はまだあなたのことが分からない。でも、私はもう一度あなたのことを信じてみたい。世界を恨んで悪魔に魂を売った魔王のようにはなりたくないから。」


「君は魔王にはならない。もしまた憑りつかれそうになっても僕が必ず引き留める。」


「ありがとう。今は時間が欲しい。自分でもどのくらいかかるか分からないけど。」


「分かった。いつまででも君を待つよ、レナ。」


 ガゼボの周りに咲いた白百合が静かに揺れた。

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