28. 褒賞
身柄を拘束されたジュベール公爵は、騎士団の取り調べに対して黙秘を続けている。後から聞いた話では、公爵は隣国へ逃亡しようとしたところを捕らえられた。オランジュ家は数年前から、ジュベール公爵が隣国から魔石を密輸していたことを掴んでいた。その情報を王家に報告したことが、公爵の逃亡先や支援者の特定につながり、今回の捕縛の重要な手がかりになった。
一方、その弟である神官長は、少しずつ供述を始めた。公爵邸から、あれだけ大量の魔王関連の資料、人身売買、違法取引の記録が見つかれば、言い逃れできないと思ったのだろう。
供述によれば、ジュベール家は旧王朝時代から続く旧家だ。魔王・レオナールの乳母はこの家の出身だった。彼らは、実の両親に見捨てられたレオナールの才能にいち早く気づき、"崇拝"していた。陰ながら彼を支え、魔王になった後も、その忠誠を誓っていた。魔王が討伐後は、その身を上手く翻し、現王朝に取り入り、公爵位を賜った。しかし魔王の力に魅せられたジュベール公爵家は、レオナールの復活を悲願としていた。――それが"魔王崇拝教"の正体だ。北の塔で神官長が連れていた子達は、平民には珍しく魔力がある孤児で、やはり魔王の生贄にしようとしたのだそう。今は王立孤児院に保護されている。
王宮で過ごす最後の日、私たち四人はソレイユ勲章を授与された。国家に特別な功績を立てた者にのみ与えられる、栄誉ある勲章だ。さらに王は、バジリスク討伐、呪い返しの開発、そして王族の呪いの解呪と、多大な功労を挙げた私に特別な褒美を与えると言った。改めて望みを問われた私は『爵位』を願い出た。
「私が望むものは『爵位』です。一般的な貴族令嬢のように実家や婚家に依存する生き方は、私には向きません。」
「――『爵位』か。」
陛下は心底意外だという顔をした。
「あともしわがままが叶うのなら、オランジュ領スクレ周辺の土地が欲しいです。あの一帯は穀倉地帯です。私一人が悠々自適に暮らしていくのには、ちょうどいい土地なのです。」
「今回の褒賞は、君の才能を見込んでという意味合いもある。君には王都に残り、皆を指導し、さらに闇魔法の見識を深めてもらいたいのだが。」
「あら?研究はスクレでもできますわ。それに必要な時は王都に出てきます。あと上京の際は、王宮書庫を使わせていただけると幸いです。」
「――そうか、分かった。王宮はいつでも大歓迎だ。事前に連絡をくれさえすれば、いつ書庫を使っても構わない。」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます。」
その日のディナーは王家の皆さんとご一緒させてもらった。王妃様やアレクサンドル殿下も少しだけ顔を出してくれた。お二人ともだいぶお元気になられたようだった。
王宮のやけに豪華なベッドで眠るのも今日が最後、侍女と一緒に居室に向かおうとすると、意を決した様子のリュカに呼び止められた。
「レナ嬢――今から少し二人で話をできないか?」
「……ええ。」
「まあ!レナ様、私、お部屋の準備をしに先に戻っていますね。」
侍女はにっこりと微笑み、足早に立ち去った。それからリュカのとっておきだという、中庭のガゼボに案内された。炎魔法で温度管理がされているのだろう、まだまだ寒いというのに、この中庭だけ色とりどりの花が咲いている。ガゼボの周りには、白百合が見事な大輪を咲かせていた。
「レナ嬢、改めて兄上の件はありがとう。君がいなかったら、解決できなかった。――でも僕は欲張りだな。目を輝かせながら呪いを語る君も、目的のためにひたむきに努力する君も、それでいて仲間想いの君も、全部僕だけのものにできたらと思ってしまった。愛している、レナ嬢。僕と結婚して欲しい。」
私だけをまっすぐ見つめる青き双眸。――私が心から渇望していた輝きが、今この瞬間、私だけに向けられている。今すぐ彼の手を取りたい。でも同時に、この手を握ってはいけないとも思った。相反する感情が絡み合って、心の中で渦をまく。どれが『本条玲奈』の感情で、何が『レナ・オランジュ』の意思なのか。自分でもよく分からなくなっていた。結論を出す前に、私は魔王と話して、ずっと気になっていたことを、まずリュカに聞いてみることにした。
「――リュカ殿下、北の塔で魔王に憑りつかれそうになった時、私、実は魔王・レオナールと話したんです。あれは古代闇魔術の精神干渉という術だと思います。魔王が言っていました。リュカ殿下は時を戻した、と。それで気づいたんです。――殿下には巻き戻す前の記憶がありますよね?」




