27. 王宮
陛下の命で派兵された騎士団が、真っ先にジュベール公爵邸に向かったが、公爵は雲隠れした後だった。そのため、私たちの王宮生活は当初の予定よりも長引いた。陛下は、そんな私たちを客人として最大限もてなしてくれた。おいしいスイーツに、華やかなドレス。王宮生活は至れり尽くせりだった。
家族からは、すぐにとてつもなく長い手紙が届いた。要約すると、どうして闇魔法が使えることを隠していたのか、危ない真似を勝手にするな、ジュベール家のことは父に任せておきなさいという内容だった。両親の怒った顔が頭に浮かび、憂鬱になる。取り急ぎ、業務的な返事を送った。
王宮滞在中、私は王妃様にも拝謁し、その呪いを解いた。王妃様は闇魔法の造詣が深く、魔王の呪いの術式や解呪に用いた骨格部位を説明すると、大変感心したご様子だった。息子の嫁にならないかと誘われたが、丁重に申し出は辞退した。
「レナ様、リュカ殿下から伝言です。これからアレクサンドル殿下のところに皆様でお見舞いに伺うそうですが、レナ様もご一緒にどうですか、と。アレクサンドル殿下、だいぶ元気になられたんですよ。」
朝から私付きの侍女がうれしそうに声をかけてきた。
「ありがとう。私もぜひアレクサンドル殿下にお会いしたいです。面会の準備をお願いします。」
「ええ。一段と素敵に仕上げさせていただきます。これ王都で流行っているデザインなんですよ。」
ドレスは侍女に勧められた紫色のプリンセスラインの物を選んだ。長い銀髪をハーフアップにまとめ、キラキラした宝石が彩られたヘアアクセサリーを付ける。
「ちょっと派手じゃないかしら?」
「いえ、すごく素敵です!――あら、早速リュカ殿下がお見えですよ。」
扉を叩く音がして、侍女が客人を部屋に招き入れる。リュカとアランだ。カトリーヌは既にアレクサンドル殿下の部屋にいるという。
「……とても似合っている。では、兄上のところに行こうか。エスコートするよ、レナ嬢。」
見惚れたような眼差しで、でもどこか切なそうに、リュカが言った。最近のリュカは私を見ると、こういう目をする。
「ありがとうございます。リュカ殿下。」
彼の手を取り、アレクサンドル殿下の部屋に向かう。
「さっき陛下から伝えられたが、遂にジュベール公爵が捕縛された。オランジュ家の情報提供が検挙の役に立ったそうだよ。陛下の判断にはなるが、そろそろ君たちを家に帰すことができるだろう。残り短いが王宮生活で何か不自由があったら、言ってくれ。」
「ならアレクサンドル殿下の面会の後も、王宮書庫に籠ろうかしら?あそこ、旧王朝時代の"禁書"までそろえてあるんですよ。そうだ。陛下のご褒美、王宮書庫の永年利用許可にしようかしら?」
「レナ嬢、それ本気で言っている?」
アレクサンドル殿下の新しい居室は北の塔とは違って、日がよく当たる温かな部屋だった。部屋に入ると、アレクサンドル殿下は、ベッドの横に座ったカトリーヌと楽しそうに談笑していた。まだ痩せているが、その声音は驚くほど穏やかだった。
「リュカ!アラン!もしかして、一緒にいるのはレナ嬢かな?まだ体を起こすのがやっとで、ベッドの上で申し訳ない。まずはお礼を言わせて欲しい。本当にありがとう。」
そう言って、アレクサンドル殿下は深々とお辞儀をした。
「顔を上げてください、アレクサンドル殿下。」
「レナ嬢。リュカから、僕の呪いのこと、魔王のことを聞いたよ。難しい呪いだったろう。大変な苦労を掛けた。君の英知と勇敢な心に救われたよ。」
「いえ、私は自分にできることをしたまでです。それに、アレクサンドル殿下をずっと守っていたのは、ロクサンヌ様ですよ。」
「ああ、まさかロクサンヌが加護呪詛を私にかけていたとはな。」
アレクサンドル殿下は、懐かしそうにロクサンヌ嬢のことを話してくれた。十歳で婚約者になって以来、常にこの国のこと、アレクサンドル殿下のことを考えて行動してくれた、お互い気持ちを確認したことはなかったが、彼女のことをとても信頼していた、と。アレクサンドル殿下の目には涙が浮かんでいた。
「――いつか自分が天国に行った時、彼女に胸を張って報告できるような人生を送ろうと思ったよ。」
傍らにいたカトリーヌが口を挟む。
「ほらほら、少し元気が出てきたからって、あまり無理しちゃだめですよ。」
「ふふふ。私の"専属"聖女は厳しいな。」
神殿は神官長やジュベール公爵家のことがあって、ほぼ機能停止している。とても聖女を出せる状況ではなく、王宮に留め置かれたカトリーヌがほぼ毎日治癒魔法をかけている。
「そうだ兄上。先程陛下から聞いたのですが、遂にジュベール公爵が捕縛されました。陛下の判断になりますが、そろそろレナ嬢たちを、それぞれの居所に帰しても大丈夫ではないかと。」
「やっとか。リュカ、報告ありがとう。――お前も、頑張れよ。」
アレクサンドル殿下が優しく微笑む。リュカは珍しく、苦笑いを浮かべた。




