26. 決別
「レオ、レオナール。それでも私は人を信じたい。あなたのように悪魔と契約して、人間をやめるようなことはしない。私は人として生きて、人として死ぬの!!」
「考え直せ。君はあの王子が憎いだろう?違うか?……クソ!やめろ。ぎゃああああ!」
魔王の絶叫と共に世界が崩れ落ちていく。段々と気が遠くなった。目を覚ますと、第一王子の居室で、リュカの腕の中にいた。
「レナ、レナ。良かった。本当に良かった。気分は大丈夫か。」
リュカの青い目に大粒の涙が溢れていた。
「ええ、悪い夢を見ていたみたい。アレクサンドル殿下の呪いを全部解いて、あの後どうなったんでしょうか?」
「魔王の魂は、兄上から離れた途端、君に憑りつこうとしたんだ。なんとか完全に憑りつかれる前に光の剣に封じ込めることができた。……間に合って良かった。」
そう言って強く抱きしめられる。我がオランジュ家は建国当初からある名家だ。すっかり忘れていたが、曾祖母だか曾々祖母だかが元王女だとエルネスト兄様も言っていた。しかし、依り代の条件とは一体……。
魔王・レオナールの言葉を思い出す。――『本条玲奈』と『レナ・オランジュ』の魂は深く共鳴し合って融合した。もしかして魂の共鳴も依り代の条件なのか。だから彼は私の心に潜む闇を見抜き、その魂ごと取り込もうとしたのか。
「殿下、ありがとうございます。私はもう大丈夫です。」
私がゆっくりと立ち上がると、リュカも我に返ったように手を離した。
「リュカ殿下、アレクサンドル殿下の応急処置、終わりました。カトリーヌも限界なので、本格的な治療は場所を移して行いましょう。」
アランは、アレクサンドル殿下を背負っていた。カトリーヌも疲れた顔をしている。時間停止を解除した瞬間に、カトリーヌが回復魔法をかけて、なんとか命をつなぐ作戦だった。上手くいったんだ。アレクサンドル殿下はぐったりはしているが、先程より生気がある。部屋の隅で鎖に縛られ、震えている神官長に告げた。
「あなた方の所業も、陛下にご報告させていただきます。一緒に行きますよ。」
***
すっかり夜も遅いというのに、陛下は我々に謁見の機会を与えてくれた。終始、真剣な表情で私たちの報告を聞き、アレクサンドル殿下にかけられた呪いが全て解けたと報告すると、涙を流して喜んだ。
「オランジュ侯爵令嬢、君が協力者だったとは!本当にありがとう。なんとお礼を言ったらいいか。余が与えられる褒美なら、何でも与えるぞ。」
「陛下、もったいなきお言葉ありがとうございます。褒美については少し考えさせてください。あと王妃様に移った呪いも、魔王の呪いの可能性があります。謁見の機会をいただければ、解呪致します。」
「ああ、頼む!」
「陛下、ジュベール公爵家ですが……。」
リュカが口を挟む。
「神官長は取り調べ中だ。公爵たちが逃げ応せぬように、騎士団をジュベール公爵家の家宅捜査に向かわせた。オランジュ家が独自の情報網でジュベール家の調査をしているのは知っている。彼らにも持っている情報を提出するように依頼した。」
お父様、そんなことしていたんだ。陛下の言葉に少し驚く。
「そしてこうなった以上、聖女・オレリアの国葬は中止にする。オランジュ侯爵令嬢、オーブリー子爵令息、そしてオーブリー子爵令嬢。ジュベール公爵の身柄が拘束されるまでは、君たちの身の安全のため王宮に留まりなさい。部屋は用意してある。」
「はい。仰せのままに。」
私たちは、従者に連れられて、玉座を後にした。




