18. 新学期
「どうして私がシャルル兄様と同じ馬車に乗らないといけないんでしょうか?」
前の学期は勝手に先に学校に行っていたのに、どういう風の吹き回しか、私はシャルル兄様と同じ馬車に乗っている。
「俺が一緒に行ってやるって言ってんだから、もう少し喜べ!」
「そう言われましても……。」
学園に着き、馬車を降りると皆の視線が集まる。頭はともかく、シャルル兄様は外見だけはいい。すらりとした長身に一つに束ねた銀髪がなびき、黄色い歓声が校庭に響く。
「では、お兄様。私の教室はこちらなので。」
「おうよ。気ぃつけろよ。」
お前に言われる筋合いはないと思ったが、めんどくさいので胸の内にとどめた。
「レナ様!ご体調はどうですか?素敵なお兄様ですわね。」
「……そうですわね。剣術は頑張ってらっしゃいますわ。」
とんだ大バカ者ですと言いたくなったが、ぐっとこらえて、一応褒めた。
「建国祭の時もお兄様とファーストダンスを踊ってらっしゃいましたよね?素敵でしたわ!今度、私にお兄様をご紹介くださいまし。」
「えー、ずるいですわ!私にもご紹介を。」
あのダンスを見て、『素敵』というのはどういう感性なのか。シャルル兄様だけはやめとけと思ったが、それも心の内に留めることにした。
「そういえば、建国祭と言えば!レナ様、リュカ殿下とも踊ってらっしゃいましたね!」
「しかも二曲も!」
「あの後、何かお話は進みました?」
「……いいえ、特に何も。」
私が酷くつまらなそうに俯くと、周りは何かに忖度したのか、すぐに話を替えた。どこぞの令息、令嬢が恋仲だとか、王都のどこのパティスリーがおいしいとか、女子らしい会話が続いていく。
「そういえば、オレリア様は体調不良でお休みですって。」
「まあ!それでは神殿のお勤めはどうされているのかしら。」
「他の聖女様たちで穴を埋めているって聞いたわ。」
オレリアは筆頭聖女、その聖女の才能は群を抜くものだと原作にも書いてあった。アランの妹もオレリアの抜けた穴を埋めるために、神殿でこき使われているのだろう。
「オレリア様と言えば、ジュベール公爵がメルシエ辺境伯家の後ろ盾になるとか。」
「メルシエ辺境伯家といえば、王家の血も入っている由緒正しい家門でしょ?災難が続く時は続くのね。」
「突然、隣国の大口取引先に切られて経済難に陥り、しかもご当主のご不幸もあって。嫡男は優秀な方らしいけど、まだ学園入学前なんですって。」
「ジュベール公爵は本当に篤志家ね。神殿への寄進や、孤児院の運営も手広くなさって、父様も褒めてらしたわ。」
「ちょ、ちょっとレナ様の前で、ジュベール公爵のことをお褒めになるのは……。」
「構わないわよ。仲が悪いのは父たちだから。」
鐘が鳴り、周りの女子たちは席に戻る。窓の外を見つめると、枯れ枝から葉が落ちた。一瞬、その葉が宙に浮いたまま止まったように見え、そしてまたはらりと地面に落ちていった。




