14. 旅路
「で、どうしてこうなったんでしょうか?」
建国祭が終わると、私は一人スクレに発つ準備をしていた。そこになぜかリュカたちの迎えが現れて、そのまま王家の馬車でスクレに連れて行かれることになった。リュカの乳兄弟、アランも一緒だ。
「この一年、瘴気のせいで魔物の増え方が異常だ。魔王の完全復活も近いのではないかというのが、王宮魔術師たちの見解だ。セザール・オランジュ卿の書斎に何かこの状況を打開する手がかりがあるかもしれない。自分の目で確かめたい。」
「でも、そんな。王族を迎えるような別荘ではないですよ。」
「構わない。野営にも慣れている。貴族の別荘なら贅沢な方だ。それに僕たちには時間がない。馬車で移動する時間も、君の意見が聞きたい。」
「なんか納得がいきませんが、おっしゃりたいことは分かりました。」
「まずは、今回倒れた従者たちの履歴書と家系図だ。アランあれを。」
アランがおもむろに書類を取り出した。
「まず一人目が北の塔の侍女。もう一人も北の塔の警備兵でした。急に年を取ったような見た目になって、城内では原因不明の奇病だと騒ぎになっています。」
二人とも魔法属性は闇。タイミング的に呪いが解呪された反動――"倍返し"だろう。死の呪いをかけるのに、自身の魔力だけでは足りず、生命力まで代償にしたのか。アランに手渡された書類を確認していく。
「お二人ともジュベール公爵の推薦状がありますね。侍女はジュベール公爵家の元侍女。門番はジュベール公爵派の子爵家の次男。……公爵家といえば、オレリア様。」
「ああ、そうだ。」
まさかと思ったあの"可能性"が脳裏をよぎる。
「オレリア様の"神様の気まぐれ"も、まさか……。」
「僕も、その"まさか"じゃないかと思っている。」
「しかし、ジュベール公爵家が神殿に多額の寄進をしているのは有名な話です。それこそオレリア様の叔父様が神官長ですし。神殿に近いそのお立場で、王族に呪いをかけるなんて……。まして魔王崇拝教など。」
「君もオランジュの人間なら、ジュベール公爵の黒い噂くらい一つや二つ知っているだろう。実は、昨今の神殿との癒着も、王家は好ましくは思っていないんだ。兄上が呪いを受けたのは、魔王の封印が解けたと神殿から報告を受けた直後だ。彼らが一枚噛んでいるとすれば合点がいく。」
「それはそうですが。」
「だがしかし、未だに魔王自身がその姿を現さないのはなぜなのか。王家を継ぐ兄上を殺害することで、魔王による治世を目指しているのかと思ったが、ならば陛下や僕を狙わないのか。」
リュカが言う通り、謎が多すぎる。リュカは私が第一王子にかけられた人為的な呪いの大半を解呪したことを陛下に報告していないらしい。
「つまり、敵を泳がせているということですか……。」
「ああ。」
この疑問のヒントが祖父の書斎に眠っていればいいのだが……。スクレは王都から馬車で二日はかかる山奥だ。何もありませんでしたでは、こちらが申し訳ない。途中宿場町に泊まり、さらに森の奥に進む。
「そういえば、どうして子どもの頃、殿下はスクレ湖にいらしてたんですが?」
「隣の森、レーヴの森までは、アランの実家、オーブリー領だからな。兄上の呪いに続き、母上も病に伏せて、僕は一旦、アランの実家に預けられた。」
「それで子ども一人で魔物狩りですか?」
「それは君もだろう?あの時は従者やアランとはぐれてしまっただけだ。――それにしても、かのセザール・オランジュ卿の遺物がこんな山奥に眠っているとは。君のご両親はこれを公にするつもりはないのか。」
「あの部屋……秘密の書斎のことを両親は知らないんです。闇魔法の術師でないと扉が開かないようになってますから。」
「なるほど。」
雪がちらつく中、馬車は山道を急いだ。別荘に着いたのは昼過ぎだった。管理人と侍女たちが出迎えてくれた。あらかじめ早馬は出していたが、やはり慌てた様子だ。
「こんな辺鄙な場所に王族の方がお越しになるとは思わず、大したもてなしもできませんが……。」
「気を使わなくていい。完全なお忍びだから。」
リュカにそう言われても、気を使わざるを得ないのだろう。管理人たちは深々と頭をさげた。
「あなたたち、お昼は馬車で食べてきたし、お茶の準備もいらないわ。私たちはお祖父様の秘密の部屋に用があるの。荷物をお願い。」
「えっまさか、開かずの間ですか!?お嬢様たち、物好きですね……。」
管理人が目を丸くした。私はこの別荘で幻影を使い、病弱な令嬢を装っていた。だから私が夜な夜なあの部屋に籠っていたことを知らない。
「では荷物はお預かりして、部屋に入れておきます。」
「よろしく頼むわ。」
管理人たちに荷物を渡すと、私たちは早速、書斎に向かった。
「ここです。」
私が扉に触れると、幾重にも魔法紋が広がり、封印が解けていく。
「――さあ殿下、扉は開きました。中に入りましょう。」




