13. ワルツ
リュカの手を取り、再びホールの中央に戻る。会場の視線が一斉にこちらに向く。まだ婚約者が決まっていない王族が、見慣れない令嬢と踊るのだから、皆その様子が気になるのだろう。
「なんだ。ちゃんと踊れるじゃないか。」
リュカはシャルル兄様とは違って、こちらの動きを見て、ステップを踏んでくれる。とても踊りやすい。
「お見苦しいところをお見せしました。先ほどのあれは兄様のステップが無茶苦茶だっただけです。領地に籠っていてもワルツくらい踊れますわ。」
「それは失礼。君とお兄さんは仲が悪いのか?」
「そうですね。兄妹仲がいいとは言えませんね。」
「でも、僕は君たちみたいに言いたいことが言える間柄がうらやましいと思うよ。」
「そうでしょうか……。」
一瞬リュカが寂しそうな顔をする。ふと、やせこけて骸骨のようだったアレクサンドル殿下のお姿が脳裏によぎる。
「そういえばあの後、兄の従者が倒れて、色々調べさせてもらった。魔王崇拝教の新たなつながりが掴めそうだ。」
実は呪いが成就前に解呪されると、"倍返し"と言って、呪いをかけた者はより大きな代償を払うことになる。寿命の一部を代償としたものは、そのまま命を落とすことがあるし、魔力の一部を代償にした者は、魔力ごと失うこともある。
「それは良かったです。」
「さらに城内の調査を進めるつもりだ。あと……、アランの妹には聖女の適性があって神殿に入っていたんだが、最近ようやく見習いから正規の聖女になった。彼女から聞いた話だが、オレリア嬢が聖女の力を失った。」
「やはり、そうですか。」
「そうか、君は気づいていたんだね。神殿側は"神様の気まぐれ"だと彼女を謹慎にしているらしい。」
「"神様の気まぐれ"ですか……。」
「とはいえ、彼女は筆頭聖女だ。神殿の権威に関わる。表向きには体調不良としている。」
「……殿下は彼女のことをどう考えていますか?」
私は一番気になっていたことを聞いた。もちろん恋愛的な意味でではない。
「信用はしていない。初めから。」
「――そうですか。では私のことは?」
「同じだ。だが……。」
「だが?」
「だが君から目を離せない。このタイミングで巡り合えたのは運命だと思っている。」
「――運命ですか。ふふふ。殿下と私にそんなものはないですよ。」
お互い話したいことがあったというのもあるが、私たちはいつの間にか二曲続けて踊っていた。
「リュカ殿下があの令嬢と二曲連続で踊ったぞ。」
「いつもオレリア様とは一曲しか踊っておられないのに。」
「あの方は?」
「オランジュ侯爵家の病弱令嬢よ。」
さっきまで軽口を利いていたシャルル兄様も呆気にとられた顔をしてこちらを見ている。二曲目が終わって、会場の端にはける。
「私、あなたのせいで随分目立っちゃったわ。」
「君はもともと目立っていたぞ。では、毒蛾令嬢。」
「違います。」
その日の帰りの馬車は、私が第二王子に見初められたと母が大はしゃぎだった。シャルル兄様だけは終始つまらなそうな顔をしていた。




