11. 建国祭
リュカたちと別れ、タウンハウスに戻る。これで私の冬休みが始まる。やっとスクレに戻れる。そう思って、玄関を入ると、いきなり母に抱きつかれた。
「レナちゃーん!元気そうね。学園は楽しい?」
「お、お母様もお元気そうで。王都にいらっしゃるなら、ご連絡くだされば良かったのに。」
「もう~!建国祭に国中の貴族が集まるなんて当たり前でしょ。あなた今更何を言ってるの?」
そうなのか。ずっとスクレに籠っていたせいで、私はこの辺の貴族の常識とやらに疎い。
「今年はレナちゃんもしっかりおめかしして、パーティに出てもらいますからね。今日の午後、フィッティングですから!」
「私、あの、その体調が……。」
「ダメよ!あなたはそうやって逃げてばっかり。まだ婚約者が決まってないんだから、這ってでもパーティーに出て殿方に見初めてもらいなさい!」
「ひっ!」
この家の最大権力者は母だ。逆らえない。そこに不仲の次兄・シャルルが現れた。
「あら、シャルルじゃない。今年の建国祭はレナちゃんのデビュタントよ、エスコートよろしくね!あなたも、まだ婿入り先が決まっていないんだから、お行儀よくするのよ~。」
「はぁ~?うっせーな。俺は卒業後は騎士団に入るって言ってんだろ。」
絶賛反抗期のシャルル兄様が吠える。
「もう~。そんな言葉教えてないでしょ。とにかくしゃんとしなさいね。」
その日午後は、大量のドレスを手に仕立て屋がやって来た。用意されたドレスを次々と試着して、何枚かのドレスが母のお眼鏡に叶った。特に薄紫色のドレスが気に入ったようだ。
「まあ!!レナちゃん素敵よ!さすが私の娘!」
薄手のオーガンジーが幾重にも縫い合わされた素敵なデザインなのだが、若干ウエストがきつい。
「お母様、お腹周りが少しきついです。」
「あらあなた、おしゃれはがまんって学園で学ばなかったの?」
「いいえ。」
「ぐはは!馬子にも衣装だな。」
馬鹿笑いと共に、次兄・シャルルが部屋に入ってきた。
「シャルル兄様、レディーの部屋に入る時は、ノックくらいしてください。」
「エルネストは婚約者が決まって嫡男としての責任感も出てきたというのに。どうして、あなたはそうなの!」
「俺は俺、兄さんは兄さん。一緒にすんな!」
「もう~、ああ言えばこう言うなんだから。」
先が思いやられる。建国祭が終わったら、母は自領の本邸に戻ると言っていたし、シャルル兄様も旅行に行くそうだから、もう少しの辛抱だ。
***
建国祭当日は、婚約者を迎えに行った長兄・エルネスト以外の家族、父、母、次兄と馬車に乗った。
「何が"深窓の侯爵令嬢"だよ。別荘に見舞いに来た優しい兄たちを野宿させる鬼令嬢なのに。」
学園内で次兄と話すことはほぼないのだが、どこかで私の噂を聞いたらしい。
「それはお兄様が騒がしかったので、使っていない離れでお休みくださいと言っただけです。」
「何が離れだよ。窓が取れたほったて小屋で眠れる訳ないだろう!」
「私の体調を心配したお医者様の判断でもあります。屋根があっただけ感謝して欲しいですわ。」
「お前は昔から可愛げがねえんだよ。」
「まあまあ、二人とも。建国祭は国一番のお祝いだから、おいしい食べ物がたくさんあるし、みんなおめかししてくるから、素敵な異性に出会えるかもしれないわよ~。もう少しニコニコしなさい。」
「……はい。」
どうしてこいつは腹が立つことばかり言うのか。私は苛立ちが顔に出ないように、貴族らしい愛想笑いを顔に張り付けた。




