開花
すう、はあ、と深呼吸の音。
冷静沈着なロイドが緊張するのは珍しいことで、ミュゼルシアも自然と身体ごと向き直り姿勢を整える。
「ルウ様に触発されたわけでは、ないのですが」
などと前置きをした大きな手に促されて、触れたのは剣の柄。
見なくてもわかる、ロイドの大切な分身だ。
「私はこの剣に、あなたへの忠誠を誓いました。騎士としての誓いです」
「ええ」
存在を知られた、八歳の時のことだ。
ミュゼルシアは重々しく頷く。
「今日は、一人の男としての誓いを、あなたに捧げたい」
ボワッと全身に熱が回った。きっと顔は真っ赤だ。
あわあわと口を開閉しながら、ミュゼルシアは、ロイドとの様々な出来事を走馬灯のように思い出す。
性別を意識し始めた頃から、ミュゼルシアはひたすらロイドのことが好きだった。
同時に、決して叶わない恋だとも思い知った。
自分は紺碧の瞳を持つ王女で、常に生死の狭間を泳いでいる。
どれだけ焦がれようと、立ち止まって大切に抱えることはできないほど、荒々しい状況にいた。
恋に囚われては、ロイドもルウも奪われてしまう。
だからミュゼルシアは今の今まで、幾重にも厳重に封印した宝箱の中に、大事に大事にしまい込んでいたのだ。
再び芽吹くのは、一瞬だった。
ぶわりと鮮明に花開くように、心が一面恋しさで彩られる。
「心からお慕いしております。あなたから目が離せたことは、一瞬たりともありませんでした」
「ロイド……」
「私は、すでにあなたのものです。あなたのこれまでも含めて、あなたを愛しています。この愛を生涯捧げることを、どうか許してください」
生易しい恋の言葉ではなかった。
どこか加虐的なまでの激しさと執着、世界さえ巻き込んで吹き荒れそうな強すぎる想い。
「……ロイド」
差し出した手を、硬い手のひらが支える。
いつも、いつでも、望む時に必ず差し伸べられる手があると、疑ったこともない。
これは、ミュゼルシアにとっての幸福だ。
「わたくし、片想いをしていたの」
迷子の子供のような声が出た。
もっと凛々しく、王女らしく伝えたいのに。
「ずっと、小さな頃から、今まで毎日。……信じてもらえるかしら」
「ええ、もちろん」
「他の男と婚姻して、子を六人も産んだわ」
「はい。頑張りましたね」
変わらず肯定してくれる声に安堵し、ぽろりと心がこぼれる。
「大切なの」
何だろう。うまい言葉が、何も浮かばない。
「あなたを幸せにしたい。笑っててほしい。もう、怖いことも痛いこともさせたくない」
守りたくて、守りたくて、なのに、いつも守られてばかりいた。
「わたくしの隣で、笑ってるあなたを見たい」
空っぽの目から、雨が降る。
秘め続けた願望が、身勝手にも、大好きな人を縛ろうとする。
だというのに、そうっと抱きしめた腕は宝物に触れるように柔らかくて。
耳元で揺れる吐息が笑みを含んでいて、喜んでくれているとわかると、もうだめだった。
「あなたの誓いを受け取りますわ」
溢れて、弾ける。
「ロイド、わたくしと婚姻してくださいませ! 力いっぱい幸せにするわ!」
「ははっ。ええ、喜んで」
お粗末様でございましたm(*_ _)m




