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母にはなれど


ジェスとラムの葬儀には、参加できなかった。

あの直後に産気づいてしまったからだ。


それから二日、ミュゼルシアは痛みと短い眠りを交互に繰り返して、ほとんど気絶した頃に双子の御子を産み落とした。


どちらも紺碧の瞳を持つ、男女の双子だ。

産声を聞くと同時に気を失い、目を覚ました時にはさらに二日が経っていて、ジェスとラムの葬儀は終わっていた。


「よく頑張ってくれた」


労ってくれたテオバルトは顔色が悪い。

どうやら心配すぎて、執務の時間以外は部屋の外を彷徨いていたようで、少し老けたように見えた。


反対に溌剌としていたのは第一妃のメリーアで、産み月を前倒してしまったにも関わらず即座に乳母や使用人や部屋を整え、意識の戻らないミュゼルシアの代わりに赤子の世話を焼いてくれたらしい。


「あなたと同じ銀髪の男の子と、テオバルト様の金髪の女の子。とっても可愛らしい天使たちよ」


乳母に抱かれた我が子と対面したのは、また三日が経ち上半身を起こせるようになった頃。

多胎児の早産は、思ったより身体に負担があったようだ。


まだふにゃふにゃと頼りない赤子たちは、どこか遠い世界の生き物のように清らかすぎて、ミュゼルシアはとても触れることができなかった。


我が子を抱けないままひと月が過ぎ、ようやくベッドから降りることが許されたミュゼルシアは、真っ先にジェスとラムの墓前に赴いた。


「ジェスとラムがあの部屋にいたのは、最期に母様に挨拶をしていたのね」


昔、母と共に生家から王城に上がったという二人は、幼馴染のように育ったのだという。

ミュゼルシアが不在のあの時、せめて死ぬ前にかつての主に挨拶をして去ろうと考えたのは、想像に難くなかった。


ジェスとラムは母の、ロイドとルウはミュゼルシアの幼馴染という立ち位置に近い。

滅多に人前に姿を見せないルウが隠れている今、ミュゼルシアはロイドと二人墓に向き合っている。


「……わたくしは、どこまでいけるかしら」


「あなたが行かれる場所なら、どこへでも付いて行きます」


夫である異母兄と同年代のロイドは、いつも包み込むような空気を纏っている。

その腕の中で甘えていたいと願えないミュゼルシアは、可愛げを母の腹に忘れてきたのだろうか。


「ジェス、ラム。愛しているわ」


厳しくあたたかく、育ててくれた人たち。

別れの言葉はとても口にできず、ミュゼルシアはまた来ると呟いて踵を返した。


足早に離宮へと戻りながら、一歩後ろに控えるロイドから報告を受ける。


ジェスとラムを殺した専属騎士は、ミュゼルシアの呪いにより自死することができなくなり、テオバルトによって地下牢に収監されている。

すでにほとんどの聴取が終わり、後は処罰を待つばかりだという。


専属騎士の自白に基づき、側妃は即日拘束。

責任を問われた国王と共に罪を犯した王族が幽閉される塔に収容されており、こちらも処罰待ち。

国王の退位は前倒しになり、理由は王太子の第二妃の暗殺未遂としてすでに国内外に周知されている。


実権を握って長いテオバルトの即位を邪魔だてする勢力もなく、御子である双子の誕生も発表されたことで、新国王として歓迎されているという。


ちなみに、母である側妃と共にミュゼルシアを軽視していた他三人の異母兄たちだが、後継の問題も解決したことで順次婿に出され、王位継承権も返上される予定とのこと。

城に残すほど有能でもないなら、それが最善だろう。


────まだ、終わっていない。


ジェスとラムが、母が、ミュゼルシアに望んでくれていたこと。

今もなお、ロイドとルウが望んでいてくれること。

ミュゼルシア自身も、望んでいること。


夢を叶えるなんて軽々しい絵空事を、ミュゼルシアは本気でやってみたいのだ。



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