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夜更かしから始まる青い春  作者:


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ep.4ー伝えたかった想いー


 変わり映えのしない毎日。

 昼に起きてゲームをしてアニメや漫画を見る。

 そうしていると朝方になり、飯を食い、寝る。

 しばらくするとマユの叫び声に叩き起こされ、また眠る。


 そんな日々が過ぎていく。

 ただ、過ぎていくだけで俺の時間は何も進んじゃいない。


 分かっている、このままじゃいけないと。

 分かっているんだ。

 しかしどうしても一歩が踏み出せない。

 ここから出たら、俺、今度こそ


 死ぬんじゃないか。


 ゾワっと胸を震えさせるこの不安が、縛り付いて離れない。


 そんな毎日に、少しだけ変なことが起きた。


 俺がなんとか気を落ち着けて外出できるのは決められた日の深夜だけ。

 車が全く走っておらず、静かさだけが包んでくれるそんな深夜にしか俺はまだ踏み出せない。


 ほぼ毎回顔を見かける店員、いらっしゃいませ、ありがとうございました、と言われるだけだが今の俺にとってこれが唯一のコミュニケーションだ。


 いつもは部屋に閉じこもっている俺も、その時だけはわずかながら社会との繋がりを実感できた。


 そんな憩いの場に突然現れた、美少女。


 顔を思い浮かべるだけで心臓がバクバクする。

 グッと近づいてきた時、柔そうな唇に一瞬目を奪われたがなぜだろう、見てはいけないような、妙な背徳心を覚えた。


 彼女は純粋そうで、優しそうで、温かい雰囲気を纏っていた。

 あの時の微かなシャンプーの香りが、まだ鼻の奥にこびりついている。


 「クラスメイト、って言ってたな……」


 壁にかかった制服に目をやる。

 両親が新しいものを買ってくれたが、まだ着ていない。

 袖だけでも、そう思い手を伸ばすが途端に呼吸が乱れ始める。


 「あー、ダメか」


 腕が震え、汗まで吹き出した。


 もう、会えないかもな。


 そんなことを思い漫画を手に取った。



 来た。


 今日は待ちに待った週刊少年チャンプを手に入れる日!


 死ぬ可能性は限りなく低いとは言え、やはり外へ出るのは怖い。

 階段の音を立てぬように、ゆっくりゆっくり降り、ドアを開けて外へ。


 夜風に当たると、少しだけ冷たい。

 もうそろそろ厚手の服も用意するか、この先訪れる冬のことを考えたら少し気が滅入る。


 ーー冬はオンラインにしよう。


 紙冊子派としての矜持が脆くも崩れ去ろうとしていた。


 「あ、本当に来た」


 コンビニの前に着くと、こちらを見ている影二つ。

 俺に言ったのだろうか?

 だが、会う約束もなければ会う人自体がいない。

 

 勘違いだろう、だが、厄介な不良だったら困る。

 ここは聞こえていないふりをして顔を伏せ一直線にーー。


 「おい」


 あ、終わった。

 今のは明らかに俺に対するおい、だ。

 チャンプ代の300円しか持っていない、これで解放してくれるのだろうか、どうしよう。


 どう乗り切ろうか考え、顔を伏せたまま立ち止まっていると


 「無視かよ」


 人生初のカツアゲだ、諦めて顔を上げながらそういえば聞き覚えのある声だな、と思いが至る。

 この声って


 「ま、マユ……?」


 顔を上げるとそこには顰めっ面をした幼馴染のマユ。


 「こ、こんばんは〜」


 とマユの背後から遠慮がちに姿を現したのは


 「あ、この前の美少女ちゃん」


 び、美少女?


 と、声をあげ自分のことを言われたのだと気が付いたらしい美少女は顔を紅潮させて俯いてしまった。


 「美少女ちゃん、じゃねえだろ!」


 マユは目を吊り上げ、俺よりも背は低いのに俺が見下ろされているかのような圧を発していた。


 「あ、いや……」


 何を言ったらいいのか言葉に詰まる、俺。


 「……まったく、顔くらい見せろよバカ」


 「うん……」


 「入院して面会できるようになったって聞いて行ったのに顔見せてくんねえし」


 「ごめん……」


 「家に行ってもおばさんとおじさんが出てくるし」


 「うん……」


 「あん時、ケンヤが私を庇ったせいで、その」


 そこまで言ってから急に黙り込んだ、マユ。


 気まずくて逸らしていた顔を向けると、こっちを真っ直ぐに見て瞳を揺らしていた。


 「あ、マユ、ちょっと!ごめん、なか……」


 「泣いてねえ!」


 そう言ったマユは上を向くと、鼻をズビっと啜りしばらくそのまま。


 やがてこちらをジッと見つめ直すマユ。

 

 「私が気付かなかったせいでケンヤを怪我させちゃってごめんって気持ちも、ケンヤがいなくならなくて良かったって気持ちも、ありがとうって気持ちも、伝えたいのにケンヤがいないと伝えられないじゃん」


 そう言い切って少し肩を上下に揺らしているマユの瞳はまだうるうると揺れている。

 こんなマユを見るのは、久しぶり、のような気がした。


 俺だけ、じゃなかった。

 あの時確かに怪我をしたのは俺だ。

 でも、マユはそのことでずっと心の棘が刺さったままだったんだ。


 なんで俺、気にかけてやれなかったんだろう。

 ずっと怖がって、ただ生きていただけだ。


 「ごめん」


 自然に漏れた言葉。


 「いや、私のほうこそ……急にごめん」


 顔を逸らしてバツが悪そうに頭を掻くマユ。


 「あのー、大丈夫?」


 しばしの沈黙の中で、マユの背後から美少女がひょっこり顔を出した。

 リスみたいだ……可愛い。


 「な……なんでしょうか」


 「こうやってまた3人で集まってお話し、しよ!」


 「え?」


 俺がきょとんとしているとマユも


 「きゅ、急だな」


 と目をぱちくりさせて彼女を見やる。


 「今すぐ学校に!っていうのは天童君も難しいと思うの!だからこうやって私とマユと天童君で遊んだりお話しして少しずつ……と思ったん……だけど……」


 最初は張り切るように言っていた言葉もだんだんと小さくなり、ポカンとしている俺らを見てやがて萎んでしまった。


 「どーすんの、ケンヤ。美少女ちゃんがこんなに心配してんだけど」


 ニヤッと笑うマユ。

 あれ、おい、なんかさっきまでのちょっと胸に来るあの感じはどこ行った。


 「あー、いやでも、俺夜しか外、出れねえし……」


 そう言って視線を天月さんにやると、こちらもまた大きな瞳を揺らしてジーッと見ている。


 「あーえっと……来週から少し早くここに来るよ……12時、とか」


 「昼の?」


 「夜の!」


 マユが真面目な顔で言うボケを間髪入れず処理。


 「2人って本当に仲良し、だね?」


 俺らの様子を見て可憐な笑顔を浮かべる天月さん。

 宵闇の中、看板の光に照らされた彼女はまるで天使だった。


 「そんじゃ来週ここで集会すっからよろしく」


 こっちはもうヤンキーにしか見えなかった。

 集会ってなんだ、集会って。

 言い方考えろ、と心の中で突っ込みつつ。


 久し振りに自分の中で何かが小さく進んだような、そんな気がしてふと空を見上げる。


 雲から顔を出した月が、太陽のように眩しく感じた。

「面白かった!」


「次話以降も読みたい!」


「今後どうなっていくの?」


と思ったら


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