ep.3ー夜更かしの出会いー
朝は変わらずやってくる、だけれど今日はいつもと少し違う、そんな朝。
何度も鏡を見て寝癖がないかチェックする、蕾開く春の日にどこか心を躍らせているのが自分でもわかった。
「私先に行くから!あとでね!」
「凛ー!忘れ物はない?気をつけていくのよー!」
というお母さんの声に大丈夫ー!と元気良く、慌ただしく返事をして、家を出る。
そう、今日は高校の入学式。
どんな人がいるのかな?
どんな人とお友達になれるかな?
あー、変な人がいたらどうしよう。
勉強ついていけるかな……。
期待と不安が胸をざわつかせる。
そして、ほんの少しの緊張感。
風に揺られ、鮮やかなピンク色のシャワーが私を包む。
ひらひらと視界を覆う桜の花びらが、新たな門出を祝福しているみたい。
そんなことを思いながらもう少しで校門に着く、そんな時だった。
突然、あたりをつんざいた悲鳴とクラクション、何が起きたかは分からないけどただ事ではないことだけは理解した。
あれ?でも、この音がした方向ってーー。
ドクンッドクンッと、静かに、重く鼓動が走る。
早足はやがて小走りになり、考えるより先に体が動いていた。
しばらくして飛び込んできたのは、血を流して倒れる制服姿の男の子と、その近くにしゃがみ込んで嗚咽を漏らしている女の子、そんな光景。
「同じ制服だ……」
何をするでもなく、ただその場に足がすくんで動けない。
やがて学校から先生達が駆けつけてきて、野次馬と化した生徒達を校舎へ誘導し始め、私も促されるままに足を向けた。
背後で遠く響き渡るサイレン音が、静かに頭に染み込んでいく。
※
「事故ったの新入生だって」
「しかもうちのクラスの子らしいよ」
「マジでー?かわいそー」
「びっくりしたよね」
入学式当日のクラス、各々が近場の生徒と挨拶を済ませ話し始めると話題は必然的に今朝の事故のことになる。
私、あの時ただ立っていただけだった……。
泣いている女の子に寄り添うことも、倒れている人の応急処置をすることもできたはずなのに。
この場に座っていることに対して少し感じる安堵感も、胸をギュッと締め付ける。
スカートの裾を握った拳が、震えていた。
※
あの日から半年、高校生活は当然のように時計の針を進めていた。
ただ一箇所、ポツンとした空席だけ時間が止まっている。
そして、私も。
移りゆく季節の中、どこか釈然とせず淡々と過ぎていく日常に追いついていないような。
窓から見えた木の枝に、一枚だけ青々とした葉が取り残されていた。
「……早く、追いつけるといいね」
ふと、そんなことをひとりごちた。
※
いつも通りの朝、いってきまーすと家を出て学校へ。
その道すがら
「ケンヤァー!」
と、なにやら女性の声。
声がした方を見ると、同じ制服を着た女の子。
髪は黒髪ロング、靴下はダルっとしていて通学カバンにはぶさかわ、みたいな、独特の顔をしたぬいぐるみを3つほどつけている。
あ、あの人って。
「茜さんだ……」
同じクラスの茜 マユさん。
友達も多く明るいキャラで、いわゆるギャルっぽい人。
たけどヒエラルキーのトップ!というわけでもなく、オタク気質なクラスメイトとも陽キャのクラスメイトとも分け隔てなく接していて、マイペースな印象を受ける。
確か、あの日の事故の当事者でもあった。
こんな朝から家の前で何をやっているんだろう?
少し興味が湧いてしばらく見ている、と。
女性の人が出てきて何やら話し込んでいる。
やはり他人の家のようで、しばらくすると女性に手を振って去っていった。
女性も家の中へ入っていったのでさりげなく歩きながら家の前に近づいて通り過ぎる。
「天童……」
表札を見てピンときた。
あ!天童君!天童君のお家だ!
茜さん、天童君のことを知っているのかな?
気になるし話しかけてみようかな……。
あー、でも天童君とどんな関係なんですか?なんて聞けないし……。
そうだ!まずは先生にちょっと天童君と茜さんについて聞いてみよう、うん、そうしよう。
頭の中はぐるぐると考えが巡っていた。
※
「茜と天童のこと?いやー、今は個人情報?そういうのが厳しくてなー」
お昼休み、職員室に行って担任の先生に茜さんと天童君のことについて聞いてみた。
ただ、忙しいのかコンビニのおにぎりを齧りながらノートパソコンから目を離さず情報を渋っている。
「お願いします!天童君に何かできないかなって……ずっと……思ってて……」
そう言われてもなあ……とタイピングを続ける先生。
「まあまあ、委員長の天月さんがなにかしたいってせっかく言ってくれてるんですから少しくらいは」
そんな状況を見かねたのか、向かいの席に座っていた女性教師が助け舟を出してくれた。
ありがとうございます!と頭を下げると、いいのよ、と微笑みながら再びお弁当を食べ始める。
「まったく、本当になんか色々うるさいんだよ、いいか、茜と天童以外には絶対に言っちゃダメだからな!面倒なことが起きたら先生、これだから」
椅子をキィッと鳴らしながらこちらを向いた先生は、首の前で親指をスッと横に引いて念を押してきた。
「すみません!茜さんと天童君以外には言いませんので!」
はあ、っとため息をついた担任の先生はパソコンへ向かうと
「幼馴染」
と、一言呟いた。
※
次の日、私は意を決して茜さんに話しかけてみた。
教室で話しちゃ不味いかな?と思ったけど、幸い茜さんは一番後ろの窓側席。
周りに誰もいないタイミングで良かった。
ちょっといい?と、声をかけてから恐る恐る先生に天童君との関係を聞いてしまったことを伝えた。
やっぱり勝手に聞き出すのは不味かったかな。
今になってちゃんと本人に聞けばよかった、と後悔し始める。
しかし、勝手に関係性を聞いちゃったのに怒ることも不快感を出すこともせず、茜さんからケンヤの家行く?と誘われた。
……えっ?ギャル、フットワーク軽くない?
不登校の生徒の家にスタパ行く?みたいなノリで行かないでしょ!
とまあ内心驚きつつ、いいなあと、少し羨ましくなった。
私にはないものって、眩しいな。
でもなんだか、少しわくわくというか、あまり話したことのない人と過ごす放課後が少し楽しみにも思えた。
天童君にはちょっと申し訳ないのだけれど。
それにクラスの学級委員長と幼馴染の家庭訪問……。
これ以上ないコンビじゃない?
うん!これはいける!
私もなにかできるのかも!
ナイスアイディア!と思わず言ってしまった。
そして先生が教室に入ってきて自分の席へ戻る時。
ふと視界に入ったひとつの空席がちょっと揺れたような、そんな気がした。
※
放課後、天童君の家に訪れた後の私達は駅前のマヌドでちょっとお喋りして、天童君の写真を見せてもらったり、カバンにつけているぬいぐるみについて教えてもらったり、そんな他愛もない会話をした。
天童君登校作戦のために連絡先も交換できた!
私、初めてだ、ギャルのお友達。
仲良くしてくれたら嬉しいな。
そんなことも考えるとウキウキが止まらなくて、なんだか寝るのがもったいなく感じた。
本当は危ないしダメなんだけど……。
優等生のちょっとした反抗、そんな軽いつもりで夜の帷が降りた外へ繰り出した。
バレたらお小遣い減らされちゃうかなあ、そんなことを考えて自転車を走らせてついたのはコンビニ。
ジジッと光る看板には虫が集っている。
そして、しんとした空気。
これも初めての経験だ。
何を買うでもない、ドキドキしながら店内へ足を踏み入れると入り口すぐ横の雑誌コーナーに男の人が1人。
ちょうど同い年ぐらいかな?不良……っぽくは見えな……。
ドキンッ、と心臓が跳ねる。
あれ?この人って
「……あの、もしかして……天童、君?」
私の声に反応した彼は、キリッとした目を見開いてあんぐりとして固まってしまった。
木の枝に残っていた最後の青い葉がひらりと、舞い落ちて風に吹かれていく。
秋が、やってきた。
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