ep.2ーあいつは、バカ。ー
「おい!危ないぞ!」
耳に届いた誰かの声。
その瞬間のことは覚えていない。
ただ、ドンっという衝撃と共に私はコンクリートに転げ次に目を開けた時にはケンヤが血を流して倒れていた。
何が起きたのかは分からなかった、ただ、救急車!という声をあげる人、悲鳴をあげる人、その中で立ち尽くして眼前の光景を眺める人、そして少し先のガードレールに突っ込みクラクションを鳴らしている自動車。
そんな状況だったのは今思い出せる。
車が私達に向かってきた時、ケンヤが私のことを押し除けてくれたことを後になって知った。
駆け寄り必死にケンヤへ声をかけた時、流れるケンヤの血にひらりと落ちた桜の花びらが赤く沈んでいったのがずっと頭に残っている。
2人で一緒に行くはずだった高校は、半年が過ぎても1人のまま。
お見舞いも何度か行ったけれど、面会謝絶。
ケンヤが退院してやっと会えると思って家に行っても、出てくるのはおばさんかおじさん。
最初は心配の一心で訪れていたけど、最近は毎朝おしかけることへの申し訳なさも感じるようになっていた。
「……少しくらい顔出せよ」
こうやって呟いて1人道を歩くのは何度目だろう。
あれから桜が散り、芽吹いた緑は地に落ち始め、今では木々が寂しそうに枝を伸ばしている。
金木犀の甘い香りが鼻腔をくすぐる、そんな季節になっていた。
※
「はよ〜」
私にも登校すれば挨拶を交わす友人ができた。
休み時間には話すし一緒にお昼も食べる。
「ねえマユ!今日一緒にカラオケいこうよ!2年の先輩達も来るの!」
見て!イケメンっしょ?とスマホの画面を笑いながら見せて遊びに誘ってくれるような友達もできた。
だけど……。
「あー、ごめん私パス、タイプじゃないわ」
毎回断るからか、理想高すぎ!と言われるけどそうじゃない。
風に吹かれてゆらりと舞う、褪せた葉のような心持ちが拭えずにいた。
「ねえ、ちょっといい?」
友人達の声が遠くなり、手持ち無沙汰な私に声をかけてきたのは委員長の
「天月さん?おはよ」
目をぱちくりとさせる彼女は整った顔立ちをしていて、入学早々モデルだの女優だのアイドルだのと噂が立っていた。
が、一般人だ。
「おはよー!……んーとね、天童君のことなんだけど……」
気まずそうだ、委員長なりに気にしているのかな。
「ああ、ケンヤね、まだ無理そう」
「そうなんだ……実は茜さんが幼馴染だって昨日先生に聞いたの……勝手にごめんなさい、それでね、私色々気になっちゃって」
少しだけシュンとしていた、会ったこともない、どんな人かも分からないのに本気で心配している。
なんていい子なんだろう、天使か。
あいつがこんな美少女に心配されるなんて生涯で二度とないだろうな。
「んー、そんな気になるなら放課後一緒に行く?」
へ?とまた目をパチクリさせる、美少女もとい、天使。
「あいつんち、ケンヤの家」
パッと顔を明るくさせるとナイスアイディア!とオーバーにぴょん、と小さく跳んで喜ぶ。
いつも物静かな感じだったけど、意外と明るい子なのかな?
すると先生がおーい席つけーと入ってきたので、じゃあ放課後ね、と一言交わして席へ戻って行った。
今日は1人じゃないんだな、帰り道。
※
「天童君ってどんな人なの?」
漂う夏の残り香が少し名残惜しいそんな帰り道を、高校生活で初めて誰かと歩いていた。
「んー、あいつは……。ばか」
ばか?ときょとんとしたような声の後でクスッと笑い声が聞こえる。
「仲良いんだね」
そう言ってルンッと軽やかに私の前へ出る天月さん。
「確かにバカかも、こんな可愛い子を待たせてるんだから」
はあ?ちょ、馬鹿にしてんの?とジッと睨む、が、別に威圧したわけではない。
慣れてないんだよ、こういうの。
「あ、ごめんごめん、そうじゃないの。茜さん本当に可愛いんだもん」
私正直だよ?と立ち止まる私に近づくと、いこっ!と腕を引っ張り歩き出す。
「ちょ、わーった!わかったから!」
委員長ってこんなキャラしてたんだ……と、意外な面に驚きつつも
「……まあ、いっか」
聞こえたか聞こえてないかは分からないけど、こちらを向いた彼女の笑顔は秋に似つかわしくないほどに咲いていた。
※
【ピーンポーン】
この時間にチャイムを押すのは初めてだ。
少し緊張して押すのを躊躇っていた私をはやく!と背中を押したのも天月さんだった。
応答はない。
この時間だとおばさんもおじさんも仕事で留守か。
「ごめん天月さん、ダメかも」
そうやって諦めながら苦笑した私を見た天月さんは、大真面目な顔で言う。
「茜さん!まだ一回しか押してないよ!諦めたらそこで試合終了、だよ!」
ふんすっ!と両腕を胸の前で構える天月さん。
はー、ケンヤ……。
こんな美少女にここまで思われてるって知ったらどう思うんだろ。
罪深い男だ。
これを知ったら半年間無駄にした後悔に苛まれて二度と出てこなくなるかも。
世の中知らない方がいいこともある、知らぬが仏。
まあ誘ったのは私だしな、とそっと人差し指を伸ばす。
【ピーンポーン】
出る気配はない。
もう一回!とおかわりを要求する天月さん。
これで最後だぞ、と言って押そうとした時だった。
「……ただいま留守にしています」
あ。
インターホンから漏れたのは、半年ぶりに聞く声だった。
ざわっと風が吹いて枯れ葉を揺らす。
なんだ、ちゃんといるじゃん。
「……おせえよ、バカ」
それきり声が返ってくることは、なかった。
※
「天童君出てくれたね!」
ルンルンとご機嫌な様子で前を歩く美少女、クラスの委員長とはいえなんでここまでするんだろ。
「ねえ天月さん」
「ん?」
と、彼女はこちらへ顔を向ける。
「なんであいつのことそんな気にかけるの?」
純粋な疑問だ。
んー、と地面をローファーでひと蹴りすると俯いたまま
「……なにも、できなかったから」
と悲しげな表情で一言。
できないもなにも、あいつに何かするなんてできようがない、と思うんだけど。
「天月さんがそこまで思い詰めなくても」
と、返事したところで彼女は顔を上げるとこう言った。
「凛、って呼んで!友達でしょ!」
意を決したような顔を見てつい、気圧される。
あ、うん、じゃあ、凛で。
と呆気に取られたような声で返事をする私。
「それじゃ私はマユって呼ぶから」
彼女は両手の指先を合わせて口元へやり、ふふっといたずらっぽく笑う。
「……わかったよ、凛」
なんだか照れ臭い、そんな様子を見た凛は、えへへっとにこやかに笑うと
「今度作戦会議しよう!」
と言い出した。
何のだよ、と問うと
「天童君登校作戦!」
とこちらへピースを突き出し、くしゃっと笑った。
まったく、幸せもんだあいつは。
「相手は中々強敵だぞ」
引く様子がないので、もう諦めた。
凛があいつをなんで気にかけているのかはわからない、が。
ま、いっか。
この後マヌド行こうよ!天童君の写真見せてよー!近づきすぎ!ちょっと離れろ!と言い合いながら過ごす放課後。
悪くはない、かな。
頬を撫でる木枯らしが歩みを軽くしてくれたような気がした。
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