【業火の魔女編:回想ー母の声】
はじめまして、えす椎名と申します。
ずっと書きたかった物語を、思い切って投稿してみました。
この作品は、
「なりたくなかったのに魔女になってしまった子」をテーマにしています。
シリアスもありますが、最後はちゃんと光が射す物語にしたいと思っています。
不慣れな部分もあると思いますが、
少しでも楽しんでもらえたら、それだけで幸せです。
どうぞよろしくお願いします。
庭園から戻った夜。
フィアが眠ったあと、イリスは静かに自室の奥――封印された鏡の前に立った。
黒い水面のような鏡が揺れ、そこから“声”が滲み出す。
『――随分と幸せそうじゃないの。いいご身分だねぇ、イリス』
その声を聞いた瞬間、イリスの表情は凍りついた。
「……母さん」
鏡の中から現れたのは、赤黒い焔をまとい、冠を戴いた女性。
かつて大陸を恐怖で覆い尽くした前代・業火の魔女――イリスの母。
『あんた、忘れてないよね?
大陸は私たちを裏切った。恐れ、縛り、排除しようとした。
あんたはその恨みを……“果たすために生まれた”んだよ』
イリスは小さく首を振る。
「そんなこと……私は、ただ……守りたかっただけだ。みんなを……」
『守る? 笑わせないで。
あんたは弱かった。泣きながら叫んで、救えもしないのに「大切な人を守りたい」なんて。
結局あんたは、炎で覆うことしかできなかった。国を焼くしかできなかった。
あれが“限界”だったんだよ』
イリスの胸が痛む。
500年前の惨劇――止められなかった炎、泣き叫ぶ声、後悔。
母の声はそこに楔を打ち込むように迫る。
『でもね、イリス。今度は違う。
フィアが来た。あの子がいるからこそ、あんたは“完全な魔女”になれる。』
「フィアを……利用するなんてしない」
『利用? あら、今だって利用してるじゃない。
あんた、あの子を“心の支え”にして安心してるんでしょ?
あの子がいれば、あんたは不安も弱さも隠せる。
……ねぇイリス。認めなよ。あの子がいなければ、また壊れるんだって。』
イリスの肩が震える。
図星だった。
『だから――フィアを傍に置きなさい。
愛して、甘えて、依存しなさい。
そして“全てを焼き尽くす理由”にしなさい。』
「違う!私はもう誰も傷つけたくない!」
『違わないよ。
本当はずっと思ってる――“あの時みたいに全部燃えてしまえば楽なのに”って』
沈黙。
否定できない。
心の奥底で、確かにそう思ってしまったことがある。
母はその沈黙を待っていたかのように囁く。
『あんたの弱さは、炎が埋めてくれる。
だから全部、燃やしなさい。今度こそ大陸ごと。
そうすれば苦しまなくて済む。愛した子を失うこともない』
鏡に伸びた母の手が、イリスの頬に触れそうになる。
『弱さを抱えたまま生きるくらいなら――全て燃やして終わらせなさい。
それが“私たち”の幸せでしょ?』
ぱちり、と炎が灯り、鏡の中の母の瞳が妖しく光る。
『さぁイリス。
次の炎は、迷いなく世界を焼き尽くすための炎にしなさい。』
お読みいただきありがとうございました。
まだ描きたい場面がたくさんあるので、少しずつ形にしていこうと思っています。
もしまた読みに来てもらえたら、とても励みになります。




