【サブストーリー薔薇騎士の魔女編:プロローグ】
はじめまして、不知夜と申します。
ずっと書きたかった物語を、思い切って投稿してみました。
この作品は、
「なりたくなかったのに魔女になってしまった子」をテーマにしています。
シリアスもありますが、最後はちゃんと光が射す物語にしたいと思っています。
不慣れな部分もあると思いますが、
少しでも楽しんでもらえたら、それだけで幸せです。
どうぞよろしくお願いします。
いいことなんて、何一つない。
そう断じてしまえるほど、私の人生は最初から擦り切れていた。
物心がついた頃、母は家を出た。
理由なんて知らない。ただ、見知らぬ男の背に隠れるようにして振り返りもせず、細い背中が遠ざかっていった光景だけが、焼きつくように残っている。
その日から、家の中は静かになった。温度のない、息苦しい静けさだった。
父は働かなかった。
朝から晩まで酒と博打に溺れ、運が向かない日は決まって私に当たった。
私が必死に稼いだ僅かな金も、「次は勝てる」という根拠のない言葉と一緒に、賭場へ消えていく。
新しい靴を買う夢も、腹いっぱい食べる願いも、父の手の中で紙屑みたいに失われていった。
今日も、乱暴にドアが開く。
軋む音が家の奥まで響き、心臓が嫌なリズムを刻む。
父の借金を取り立てに来た男たちだった。
怒鳴り声、酒と汗の匂い、重たい沈黙。
もう、金目のものなど何一つ残っていない。
空の引き出しをひっくり返した彼らは、やがて私に視線を向けた。
「これでも金になるだろ」
薄汚れた子供でも、買う奴はいくらだっている。
そう吐き捨てるように言った男の目が、私の身体をなぞる。
値札でもつけるみたいに、上から下まで、ゆっくりと。
逃げ場はなかった。声も出なかった。
助けを求める相手など、この家にはいなかった。
その瞬間、胸の奥で何かが音を立てて崩れた。
恐怖と絶望が限界を越え、代わりに、熱が込み上げてくる。
理不尽への怒り。奪われ続けた日々への憎しみ。
「もう、何も奪わないでっ!」
そう叫んだ刹那、世界が歪んだ。
空気が震え、男たちの声が遠ざかる。
床に落ちた影が、意思を持ったように蠢き始めた。
自分でも理解できない言葉が、喉から溢れ出る。
それは呪いであり、祈りであり、復讐だった。
生き延びるためにはそれしか無かった。
この日、私ーーーアリスは魔女になった。
お読みいただきありがとうございました。
まだ描きたい場面がたくさんあるので、少しずつ形にしていこうと思っています。
もしまた読みに来てもらえたら、とても励みになります。




