08.アリス、転移先を探す(2/2)
そして、光がふっと消え。
光りを失った魔法陣の上からは、先ほど置いた荷物が消えていた。
「やった! 物だけの転移成功!」
アリスはガッツポーズを決めた。
笑顔でテオドールを振り返る。
「テオドール、行くよ! 急ごう!」
「え、どこに行くんですか?」
「尖塔のてっぺん! 15分後に、あの荷物から魔力が高く打ち上がるようになってる!」
アリスは思ったのだ。
厳密な場所が分からなくても、大体の場所が分かれば良いのではないか、と。
だったら、向こう側の転移陣から魔力を打ち上げて、塔の上からその場所を確認すればいい。
(我ながらいい考え!)
ドヤ顔のアリスの言葉に、テオドールがピシリと固まった。
しばらく黙った後、ボソッと言う。
「……その魔法陣のある場所が、ドラゴンの巣の近くだったらどうするんですか?」
「……っ!」
アリスは大きく目を見開いた。
その可能性は考えていなかった。
(ど、どうしよう!)
焦って今から止めに行くことを考えるが、もう魔力が残っていないため転移はできない。
一瞬だけ頭を抱えたものの、彼女はすんと真顔になった。
(…………ま、仕方ないか)
どうにもできないのであれば、もう開き直るしかない。
彼女は悟りを開いたような穏やかな顔でテオドールを見上げた。
「もう送っちゃったし、諦めよう」
「……」
「結界あるから大丈夫だよ。それに、ドラゴンだって誰がやったかなんてわからないだろうし」
「……」
テオドールが苦笑いする。
アリスはランプを拾うとテオドールを見上げた。
「とりあえず塔に行こうか。せっかく送った訳だし」
「……そうですね」
テオドールがため息をつきながらうなずく。
2人は地下を出ると、速足で裏庭へ回った。
裏庭の奥には大きな尖塔がそびえている。
2人は塔の中に入った。
アリスが壁際の螺旋階段をへっぴり腰で登ろうとすると、テオドールが呼び止めた。
「時間がなさそうですので、運んでもいいですか」
アリスがうなずくと、テオドールが彼女を抱えた。
足元に気を付けながら尖塔の階段を上り始める。
アリスは塔の窓から外を見た。
半月が昇り始めているのが見える。
(もうすっかり夜だ)
そして、塔の最上階に到着すると、テオドールがアリスをそっと降ろした。
眼下には、月明りに照らされた広大な森が見える。
アリスは吹きつけてくる風に目を細めながら、キョロキョロと周囲を見回した。
「どこから打ち上がるかな」
「俺はあっちを見ておきます」
「じゃあ、わたしはこっち」
そしてアリスが手すりにつかまり、遠くの山々に目を凝らした、その瞬間――
――ヒューンッ!
空気を切り裂くような音が聞こえてきた。
閃光が一瞬だけ森の輪郭を白く照らし、
ドーン!
低い響きとともに、弾けた光が、黒い空に大きな光の花を咲かせる。
テオドールが呆気にとられたような顔をした。
「アリスさん、荷物の転移先から打ち上がるのって……まさか花火ですか?」
「うん、ただの光の柱より、こっちの方が派手で見つけやすいかなあと思って」
「…………」
そんな会話をする間にも花火は次々と打ち上がる。
赤、青、金の光が夜空に弾け、重なるように大輪の花が咲いていく。
アリスは首をかしげた。
(なんか、近くない?)
もっと遠くに小さく見えるかと思いきや、やけに大きく見える。
どこから上がっているのだろうと、アリスが周囲を見回していると、
横に立っていたテオドールが森の奥を指差した。
「あそこから打ち上がっています」
目を凝らすと、そこには光る湖面が見えた。
湖の向こうから光の筋が上がっているのが見える。
「……えっ!?」
アリスは思わず目を見開いた。
あの場所は間違いなく、結界探索の時、湖の対岸の霧越しに見えた遺跡群だ。
(あそこって、元王宮の遺跡がある場所だよね?)
アリスは思わず苦笑した。
転移というくらいだから、もっと遠い場所かと思っていた。
「……まさかの近さだったね……」
「そうですね……ここから半日くらいの距離でしょうか。魔獣の強さと数が問題になりそうですが」
そんな会話をしている間も、花火は夜空を彩り続ける。
下の方から人の声が聞こえてきた。
見ると城の中から人々が出てきて、楽しそうに指を差したり声を上げている。
(どうなることかと思ったけど、みんな喜んでくれてるみたい)
アリスが人々の様子をぼんやり見ていると、
テオドールが花火をながめながら口を開いた。
「……なんだか建国祭を思い出しますね」
「花火が上がるんだっけ」
「はい、ここまで綺麗ではありませんが」
テオドールがここで言葉をいったん切ると、穏やかに続けた。
「実は……今年の建国祭は、アリスさんを誘って一緒に行こうと思っていたんです」
「そうなの?」
「はい、花火を一緒に見たいと思って。――だから」
テオドールが微笑んだ。
「場所はかなり違いますけど、こうして一緒に見られて良かったです」
「……そっか」
アリスは夜空を見上げた。
大きな花火が、次々と夜に咲いている。
その後、しばらくして花火が止んだ。
尖塔は再び夜の静寂に包まれる。
静けさの中で、テオドールが月を見上げながら口を開いた。
「そういえば、結界を修復してから、そろそろ3か月経つのですが、気が付いていますか?」
アリスは目をぱちくりさせた。
「もうそんなに経つっけ」
王宮遺跡は、第4章の結界探索で発見した場所です
詳しくはこちら⇒https://ncode.syosetu.com/n1001lf/63




