14.ビクトリア、絶句する
アリスたちが野菜箱に乗って猛スピードで戻ってくる、少し前。
古城の執務室にて、ビクトリアが机に座って書き物をしていた。
ふと目を上げて、壁に貼られた日付表を見る。
「アリスさんたちが出かけてから、もう5日になるのね……」
魔法インクや本を取りに行くついでに、移住の勧誘をしてくると言っていたが、
一体どうなっただろうか。
「来てくれたら嬉しいけど……悩みも増えそうね」
彼女は、自分たちが平和に暮らしてこられたのは、
もう死んだと思われているからだと思っている。
外部と接触するということは、自分たちの生存が外部に伝わる可能性がある。
平和に暮らすことだけ考えれば、人を増やすなど考える必要はない。
でも、子どもたちの代のことを考えれば、外部との接触は必須だ。
(どうなるかしら……。まあ、そもそも、移住してきてくれるかは分からないけれど)
ビクトリアの記憶では、魔の森周辺の人々は森を異様に恐れていた。
森の真ん中で暮らすなんて、とんでもないと断られる可能性も高い。
(2人が帰ってきたら、状況を聞いて、それから考えましょう)
ビクトリアは、軽くため息をついた。
書き物に戻ろうと、視線を書類に落とした――その時。
カツカツカツ
廊下から硬い靴で走る足音が聞こえた。
コンコンコン、とせわしなくドアがノックされ、慌てた様子のエマが入ってくる。
「ビクトリア様、ちょっと来ていただいてもよろしいでしょうか」
「どうしたの?」
「アリスちゃんとテオが帰ってきました」
ビクトリアは思わず目を見張った。
2人が戻ってくるまで、最低あと3日はかかるはずだ。
(もしかして、何かあった……?)
ビクトリアは急いで部屋を出た。
廊下を早足で歩きながら、少し前を行くエマに尋ねる。
「一体何があったの?」
「ええ、それが……意識のない娘を連れてきていまして」
エマが困惑したように言う。
ビクトリアは軽く眉をひそめた。
「意識のない娘……?」
「はい。事情は全く分からないのですが、見覚えのない娘でして……」
頭の上に大量の疑問符を浮かべながら、ビクトリアは建物を出た。
小走りに庭を横切って城門を出ると、開拓中の広場には人がやたらと集まっていた。
その中央には、不思議な箱のようなものが落ちており、
地面に敷かれた布の上には、1人の見知らぬ娘が寝かされている。
「まあ! 大変だわ!」
ビクトリアは急いで駆け寄った。
娘の呼吸を確認しながら、そばに立っていたアリスに尋ねる。
「アリスさん、この方は?」
「カスレ村の村長の娘、ロッテさんです」
ビクトリアは急いで娘の体の様子を確認しながら、混乱した。
誰かは理解できたが、なぜここにいるのか全くわからない。
そしてロッテをいろいろ調べたあと、ほっと胸を撫で下ろした。
「たぶん、ちょっと気を失っているだけね。問題ないと思うわ」
「そうですか」
そばにいたテオドールも、ほっとした表情をする。
彼によると、彼女はカスレ村から代表として来たらしい。
「実際に古城で暮らしてみて、安全を確かめたいそうです」
ビクトリアは気絶するロッテを見ながら黙り込んだ。
来る途中で気絶している時点で、もう安全とは言えないのではないだろうか。
というか、どうやってここに来たのだろうか。
あと、なんか幸せそうな顔で気絶している気がする。
聞きたいことはたくさんあるものの、ビクトリアは口を閉じた。
まずはロッテの介抱が先だろう。
「……とりあえず、お部屋に運びましょう。エマ、空いている部屋を用意してもらえるかしら」
「はい、わかりました」
エマが先に走って行く。
――そして、約10分後。
テオドールに抱き上げられたロッテは、無事、空いている部屋へと運ばれた。




