表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました  作者: 優木凛々
第1章 魔法研究者アリス、辺境に追いやられる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/19

05.ヴァルモア領への旅路


本日1話目です。


やや説明&伏線回です。



 

 幸いなことに天気も良く、ヴァルモア領への旅は順調に進んだ。


 アリスは、馬車の外をながめて過ごした。


 怒涛の日々に、疲れ切っていたというのもあるが、

 王都からあまり離れたことがなかったので、外が珍しかったからだ。


 街道を行き交う馬車や、遠くに見える大きな街などをながめながら、彼女は思った。



「世界って広いんだね」



 それに飽きると、馬車の中で、持って来た魔法書に熱中する。


 領地経営については、着いてから考えることにした。

 何も分からない状態で考えたところで、意味がないからだ。



(魔法陣も、実際に見てみないと、よく分からないことも多いしね)





 ――と、こんな感じで、旅自体は順調に進んでいるのだが、

 アリスには1つ、気になっていることがあった。



(……なんか、テオドールが変なんだよね)



 旅が始まってから、彼はずっとアリスを気に掛けてくれた。

 気分が悪くなっていないか尋ねてくれたり、

 馬車の窓ごしに、周辺の地理について教えてくれることもある。


 魔法書に熱中したアリスが、あまりにも動かないので、


「本を読んでいる置物を馬車に乗せている、と錯覚しそうです」


 と冗談を言ったりしてくることもあった。


 これだけ見ると、いつも通りのテオドールだが、

 ふとした拍子に見せる表情が、どこか暗い気がする。


 考え込むような顔をしていることも多く、話しかけても気が付かないこともあった。

 2年ほどの付き合いだが、こんな彼は初めて見た。



(何かあったのかな……?)



 聞いてみようかと思うが、聞く機会もないまま、そのまま旅を続ける。




 *



 3日目あたりから、景色が変わってきた。


 大きな街は見なくなり、小さな街や村などを見るようになった。

 街道も人が減り、周囲の景色も山野へと変わっていく。



 *



 そして、4日目の午後。

 アリスたちは、ヴァルモア領のすぐ隣にある、小さな街に到着した。


 ここで、テオドールを除く騎士3人は王都に戻った。

 ここからアリスが住む予定の城までは、テオドールと2人で行くことになっているらしい。




 ――そして、この日の夜。

 ひんやりとした夜の空気の中、

 アリスとテオドールは、泊っている宿の隣にある小さな食堂に向かった。

 食事を簡単に済ませる。


 その後、テオドールが、アリスの目の前に古い地図を広げた。



「明日向かうのは……この村です」



 アリスは彼の指先に目をやった。

『カスレ村』と書いてあり、魔の森のすぐ近くだ。


 テオドールによると、明日の午前中、ここから迎えが来るらしい。


 アリスは身を乗り出して地図をながめた。



「わたしの住むお城ってどこにあるんだろう?」



 テオドールが、村の近く、森の入って少し進んだ場所を指差した。



「このあたり、と聞いています」

「入口かと思っていたけど、少し奥なんだね」

「……そうですね」



 テオドールは相槌を打つと、真面目な顔でアリスを見た。



「念のため確認しておきたいのですが、アリスさんは攻撃魔法が使えますか?」



 万が一のことを考えて、アリスの戦闘能力を押さえておきたいらしい。


 彼女は思案に暮れた。


 『攻撃魔法』とは、敵にダメージを与えることを目的とした強力な魔法だ。

 使うためには、膨大な魔力と才能が必要で、使える者はごくわずかだ。


 アリスは魔法研究者なので、魔法陣そのものは作ることができる。

 でも、作るのと使うのは話が別だ。



(そもそも攻撃魔法なんて使ったことがないんだよね。専門外だし)



 考え込むアリスを見て、テオドールが安心させるように微笑んだ。



「大丈夫ですよ。もし戦闘になったら、すぐに隠れてもらえれば問題ありませんから」

「わかった、ありがとう」



 うなずきながら、アリスは残念に思った。

 魔法陣なら、すごいの作れるのになあ、と思う。




 *




 そして、この翌日の昼前。

 アリスたちが泊っている宿の前に、1台の幌付きの馬車が停まった。

 のんびりとした雰囲気の中年男性が降りてくる。


 1階に現れたアリスとテオドールを見て、彼は人が良さそうな笑みを浮かべた。



「初めまして、私はカスレ村の村長をやらせていただいている者です」

「はじめまして、領主のアリスです」



 いい人そうだな、と思いながらアリスが挨拶すると、村長が少し驚いた顔をする。




 その後、3人は村に移動することになった。


 テオドールは、村長の乗って来た馬車にアリスの荷物を積むと、自らは馬に乗った。

 アリスは、御する村長の隣にちょこんと座る。



「では、行きましょう」



 村長が鞭を当てると、馬がいなないた。

 どんよりと曇った空の下、街を出て、森の中を伸びる街道を進み始める。


 生暖かい風を頬に感じながら、アリスは周囲を見回した。

 今まで石で作られていた街道は土へと変わり、人が全くいない。



(あんまり行く人がいないのかな)



 アリスがキョロキョロしていると、村長がのんびりした感じに口を開いた。



「先ほどは驚いてしまってすみません。予想よりお若かったもので、つい」

「大丈夫です。気にしないで下さい」



 そう言いながら、アリスは思った。

 そういえば、前の領主ってどんな人だったんだろうか。


 文官カミーユの説明にも、前領主の話はなかった。

 一応聞いておいた方が良い気がする。


 馬に揺られながら、アリスが尋ねた。



「前の領主ってどんな方だったのですか?」

「前の領主様……ですか」



 村長が考え込んだ。



「……そういった方はいないですね」

「え?」



 意外な答えに、アリスは目をぱちくりさせた。



「わたしの前に領主だった人ですよ?」

「はい、私が知る限り、領主様はアリス様が初めてです」



 村長によると、なんと今までヴァルモア領に領主がいたことはないらしい。



「村のことは自分たちで行っておりましたので」



 税金も、王都から手紙が来るので、

 その通りに穀物を集めて、隣の領に納めに行くらしい。



「ですので、お上から手紙が来て、ここまで迎えには来たのですが、領主様がどんなものかよく分からずにおりまして……」



 村長が恥ずかしそうに言う。



(え……)



 アリスは呆気にとられた。

 村長の話を、頭の中で整理する。


 そして、彼女は思った。



(もしかして、ここって、領主とかいらないんじゃ……?)



 近くの枝に停まっていたカラスが、アリスに同意するように、カア、と鳴いた。





また夜投稿します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ