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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました  作者: 優木凛々
第5章 カスレ村へ

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13.村娘ロッテ、古城に行く(2/2)

 


 野菜箱は1メートルくらいのところまで浮くと、ふよふよと停止した。


 口をパクパクさせるロッテの前で、アリスがポケットから紙を取り出した。

 静かにつぶやく。



起動(カンターレ)そよ風(アウラ):魔法陣】




 紙が輝きを帯び、背後から風が吹いてきた。

 同時に、まるで氷の上を滑るように、野菜箱がすうっと前に進み始める。



「……っ!」



 ロッテは目を見張った。

 まさかの状況に声が出ない。


 3人を乗せた野菜箱は、森の中に滑るように入った。

 人が軽く走るくらいのスピードで、木々の間をどんどん進んでいく。



(す、すごい! 飛んでる!)



 興奮するロッテの後ろで、テオドールが体重を傾けた。

 どうやら、彼がコントロールを担っているようで、彼が重心を移動させることによりバランスをとったり曲がったりしている。


 ロッテは周囲を見回した。

 今まで怖くて入ったことがなかったが、魔の森は神秘的な場所だった。

 苔むした古い木々が立ち並び、見上げると木漏れ日が見える。



(きれい……)



 不思議な乗り物に乗っているせいか、強い2人が一緒のせいか、

 魔の森もそこまで怖くないな、と思う。

 頬に感じる風も心地よい。


 しばらくいくと、アリスが声を張り上げた。



「ロッテさん、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です!」



 ロッテが答える。

 慣れてくると、意外と楽しいな、と思う。


 アリスが声を張り上げながら尋ねた。



「乗り心地はどうですか?」

「はい! とても楽しいです!」

「スピード上げても大丈夫ですか?」



 どうやらスピードを上げると早く到着するらしい。

 早く剣士様たちに会いたい一心で、ロッテは叫んだ。



「はい! 全然大丈夫です! がんがんスピードあげちゃってください!」



 アリスが「わかりました」とうなずいた。

 後ろのテオドールに大きな声で言う。



「聞こえた? そっちはどう?」

「はい、こちらも大丈夫です! いつでもいけます!」

「わかった、行くよ!」



 このやり取りを聞いて、ロッテの胸に一抹の不安がよぎった。

 言ってはいけないことを言ってしまった気がする。


 そんな彼女を他所に、アリスがポケットから紙を取り出した。

 声高らかに詠唱する。



起動(カンターレ)風:魔法陣(ヴェントス)



 その瞬間、後ろから、ビュウッ、と突風が吹いた。

 くんっと体が前に移動する。



(わっ!)



 ロッテが目を白黒させている間にも少しずつ速度が増して、木々が迫るように見え始めた。

 そのうち景色が線になって流れ、頬の肉が風圧でぶるぶると震えだす。



(ちょっ! こ、これは少し早いのでは……!)



 ロッテが固まっていると、テオドールが叫んだ。



「前方にハウンドドッグの群れがいます! 右側に全力で回避!」



 その瞬間、野菜箱がぐんと右側に傾いた。

 ぐいんっと方向が変わり、ものすごい圧を感じる。



「……っ!!!!!」



 ロッテは声にならない叫びを上げた。

 獰猛な唸り声が聞こえた気がしたが、すぐに通り過ぎる。


 その後も野菜箱はガンガン進み続けた。


 何度か魔獣に襲われるものの、箱ごと逃げられない場合は、急ブレーキで止まった後、

 ロッテは箱の中にうずくまり、アリスとテオドールが戦う。


 外の戦闘音を聞きながら、ロッテは思った。

 なんかとんでもないことになってしまった、と。



(で、でも、ここを切り抜ければ、カッコいい剣士様が私を待っている……!)



 そんな邪なモチベーションで、何とか気絶せずに耐え抜く。



 そして、村を出てから数時間後。

 猛スピードで走る野菜箱の後ろから、テオドールが叫んだ。



「古城が見えてきました!」

「え! もう! はやっ!」



 アリスが叫び返すと、紙を取り出す。



起動(カンターレ)そよ風:魔法陣(アウラ)



 正面から風が吹き、野菜箱がゆるゆるとスピードを緩め始めた。


 森が明るくなり、開けた場所に出ると、たくさんの人たちが働いている姿が目に入った。

 みんな驚いたような顔で3人を振り返る。


 人々の注目の中、テオドールが野菜箱から飛び降りた。

 地面に足を踏ん張って野菜箱を止めると、ゆっくりと着地させる。



(つ、着いた……)

 


 ロッテはホッと息をついた。

 ボンヤリと周囲を見回す。


 そして、背の高い若い男性が駆け寄ってくるのを見て、

「良かった……」とつぶやきながら、ゆっくり意識を手放した。






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