12.村娘ロッテ、古城に行く(1/2)
ロッテ視点です
ロッテが“魔の森”の奥にあるという集落に行くと決めた、翌々日の朝。
彼女は、小さな荷物を持って村の裏門に立っていた。
たくさんの村人が見送りに来ており、心配そうな顔で声を掛ける。
「がんばるんだよ、ロッテちゃん」
「気を付けてな!」
ロッテは微笑んだ。
「ありがとう、私、しっかり見てくるね!」
皆と別れを告げていると、父親である村長とテオドールが村から歩いてきた。
父親はいつも通りだが、テオドールは端正な顔に深刻そうな色が見える。
(何かあったのかな……?)
ジッと見ていると、テオドールの澄んだ瞳とバチっと目が合った。
思わず目を軽く逸らすと、微笑みかけられる。
「すみません、ロッテさん、お待たせしました」
「い、いえ……あ、あの、大丈夫です!」
ロッテは皆に「行ってくる!」と手を振った。
「がんばって!」という歓声の中、テオドールに付いて歩き始める。
歩きながら、彼女は気合を入れた。
(私、がんばらないと!)
安全かどうかきちんと確かめて、みんなを安心させようと決心する。
そして、前をゆっくりと歩くテオドールに声を掛けた。
「あ、あの、改めまして、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
テオドールは、歩調を落として横に並ぶと、微笑みながらあいさつを返してくれる。
そのあまりのイケメンっぷりに、ロッテが思わず目を泳がせた。
「あ、あの、アリス様は……?」
「出発準備のために、森の入口の小屋にいます」
テオドールが心配要りませんよ、という風に優しく言う。
耳が熱くなるのを感じながら、ロッテは密かにため息をついた。
実を言うと、ロッテはテオドールを見たことがないほど素敵な人だと思っていた。
まず顔がめちゃくちゃいい。
その上、気さくで優しくて、魔獣を圧倒するほど強いときている。
お年頃のロッテから見て、正に理想の恋人像だ。
というか、本気で結婚したい。
(でも……テオドール様は、アリス様にぞっこんなのよね……)
常にアリスを目の端で追っており、その表情はとても甘い。
話しかけられると嬉しそうだし、食事をとってあげたり、口を拭いてあげたりと明らかに甘やかしている。
よほど好きでなければ、あそこまでできない。
(いいなあ、こんな素敵な人にあそこまで尽くされるなんて)
心の底から羨ましく思う反面、仕方ないかな、とも思う。
(アリス様、可愛いもんね)
いつもボンヤリしており、何を考えているかよく分からないが
どことなく品があるし、小柄で華奢な感じで、とても可愛いらしい。
しかも、凄腕の魔法士で、今回戦っているのを見て、ただ守られているだけではないのが分かった。
ロッテは今まで1度しか魔法を見たことがない。
隣町に行ったときに、たまたま魔法士が魔獣を倒しているのを見た時だ。
その時は初めて見た魔法に感動したが、アリスの魔法は、そんな記憶など消し飛ばすほどすさまじかった。
可愛い上に強いとか、ずる過ぎる。
(これはもう、諦めて次にいくしかないよね……)
そう思っていた矢先、ものすごい情報が飛び込んできた。
どうやら魔の森の奥の古城には、テオドールのような剣士がおり、しかも独身らしい。
ロッテは思った。
マジかっ! と。
(私だって素敵な彼氏にお姫様抱っこされたい!)
村には独身の女の子が他にもいる。
これはきっと早い者勝ちに違いない。
(早く行かないと!)
そんな訳で、彼女は自分が行くと立候補した。
7割くらいは村人たちのためだが、3割……いや、5割は、こういった邪な考えがあったことも否めない。
(魔の森は怖いけど、楽しみ過ぎる!)
土の道の上を、ロッテは弾むように歩いた。
どんな素敵な人がいるのかしら、と期待に胸を膨らませる。
そして、魔の森の前の小屋に到着すると、そこにはアリスが立っていた。
服はやや汚れており、顔には泥が付いている。
ロッテは丁寧にお辞儀をした。
「どうぞよろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
アリスも丁寧にあいさつを返してくれる。
眠そうな瞳をしており、何を考えているか全く分からない。
アリスが、手招きした。
「では、こっちに来て下さい」
その後について行くと、そこには不思議な物体が置いてあった。
野菜を収穫して入れるのに使う長方形の大きな木箱で、なぜか綱でぐるぐる巻きにしてある。
底にはなぜか大きな革鞄が縛り付けてあり、こちらも縄でぐるぐる巻きにしてある。
(え? なにこれ……?)
ロッテは目をパチクリさせた。
「あの、これは……?」
「ちょっとだけ浮く乗り物的なやつです。これで古城に向かいます」
「…………え? これで?」
状況が理解できず戸惑うロッテに、アリスが真面目な顔でうなずいた。
「とりあえず乗ってください、鞄はこちらに」
「は、はい……」
促されるまま、ロッテは箱の真ん中に乗り込んだ。
テオドールが縄を持ってきて、ロッテの体と箱を固定し始めた。
「あ、あの……」
「大丈夫です。体を固定しているだけですから」
テオドールが爽やかに微笑まれ、それ以上何も言えなくなる。
その後、アリスが先頭に乗り込んだ。
後ろにテオドールが乗り込むが、彼はなぜか立っている。
ロッテは混乱した。
なぜ自分が野菜箱に乗り込んでいるか分からない。
アリスが声を張り上げた。
「では、行きましょう! 最初はゆっくり行きます」
「了解!」
テオドールが、後ろで踏ん張りながら答える。
そして、ロッテが戸惑う中、前に座っているアリスが何かをつぶやいた。
床が薄っすらと金色に光った。
その瞬間、野菜箱がゆっくりと浮遊し始める。
「……っ!!!!!」
ロッテは目を丸くした。
予想外の出来事に、背筋が凍り付く。
野菜箱は1メートルくらいのところまで浮くと、ふよふよと停止した。
口をパクパクさせるロッテの前で、アリスがポケットから魔法陣が描かれた紙を取り出した。
静かにつぶやく。
【起動・そよ風:魔法陣】
魔法陣が金色に輝くと共に、背後から風が吹く。
野菜箱がまるで氷の上を滑るように、すうっと前に進み始めた。
(つづく)




