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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました  作者: 優木凛々
第5章 カスレ村へ

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09.難航

 

 アリスが村長に、

「引っ越しませんか?」

 という、唐突な提案をした、約15分後。


 とりあえず座って話そうということになり、

 アリスたちは『集会所』という名前の掘立小屋に移動した。

 村長と村の主だった者たち数名と共に、古い大テーブルを囲む。


 そこへ、村長の娘ロッテがお盆に乗せてお茶を運んできた。



「どうぞ、お飲みください」



 そう言って全員に配ると、自分は集会所の隅に静かに腰かける。

 村長が軽く咳払いをすると、改まったように座り直した。



「……では、先ほどの『引っ越し』について、詳しくお話を聞かせてください」



 アリスは、考え込んだ。

 こういうのはテオドールの方が得意だ。

 きっと自分が説明するより上手くいくだろう。


 彼女は真面目な顔で口を開いた。



「はい、では、テオドールから説明します」



 いきなり振られたテオドールが「えっ」という風にアリスの顔を見た。

 一瞬戸惑ったような顔をするものの、すぐにうなずく。



「はい、ではご説明します」



 彼は言葉を選びながら慎重に話し始めた。


 魔の森の奥に、土地が肥沃で安全な場所があることや、

 小さな子どもも含めて60人ほどが暮らしていることを説明する。


 村長が驚いたような顔をした。



「……まさか、魔の森の奥にそんな場所があるとは、夢にも思いませんでした」

「危険な場所ばかりだと思っていたな」



 他の人々もうなずく。

 どうやら興味はあるようで、皆口々に疑問を口にした。


 どんな人たちが住んでいるのか、広さはどのくらいなのか、作物の育ち方など、様々な質問がされる。

 特に作物の育ちが良いというところは魅力的なようで、全員が目を輝かせる。


 しかし、いざ引っ越しという話になると、村長は難しい顔をした。



「……実を言うと、我々は魔の森が恐ろしくてたまらないのです」



 子どもの頃から、魔の森は怖い所だと散々脅されて育ったため、怖いものだと思い込んでいるという。

 村人の何人かがうなずいた。



「正直なところ、魔の森の中に暮らして気持ちが休まるとは思えないですな」

「特に子どもは魔獣を怖がりますから」



 老人たちが髭をしごきながら言った。



「それに、ここは我々ヴァルモアの民が長らく守ってきた土地ぞ」

「そうだな……そもそも移住したら、我々が代々守ってきた墓はどうなるという話だ」



 老人たちの意見に、比較的若い村人が苦々しげな顔をした。



「じゃあ、ここで飢えて生きろというのか?」

「俺は子どもの代までこの暮らしをさせたくない」

「このままだと、遅かれ早かれ死人が出るぞ! 墓より今生きている者だろう!」



 その場は紛糾し始めた。


 魔の森は危険すぎると言う者、

 先祖の土地と墓を守るべきという者、

 子どもたちのことを考えれば移住を検討すべきという者。

 三者三様だ。


 言い合う村人たちをながめながら、アリスは思案に暮れた。

 移住というのは、なかなか難しいものらしい。



(どうしたもんかな……)



 そんなアリスを他所に、会議はますますヒートアップしていく。


 しばらくして、テオドールが穏やかに口を開いた。



「それでは、お互い持ち帰って、また夜にでも話し合ってみるのはどうですか。ご家族の方のご意見もあるでしょうし、村の片付けも残っていますから」

「そ、そうですな、そうしましょう」



 村長がホッとしたようにうなずいた。

 他の者も同意したことから、また夕食後に集まることを決め、その場は解散となる。


 アリスは集会所を出ると、テオドールと一緒に歩き始めた。



「移住って難しいんだね」

「そうですね」



 テオドールが人々を手伝いながら聞いた話によると、

 彼らは先祖代々、数百年ここに住んでいるらしい。


 アリスは目を丸くした。



「え、そんなに?」

「はい、“自分たちはここに数百年住むヴァルモアの民だ”とおっしゃっていました」



(なるほどなあ)



 アリスは思案した。


 自分は孤児で、住む場所に執着がないから気楽に考えていたが、

 先祖代々数百年住んでいれば、離れたくないのも無理ないのかもしれない。



(それに、そもそも古城が安全か分からないのも大きい気がする)



 先祖代々の土地を捨てて、安全かどうか分からない場所に行くなんて、そりゃできないよね、と思う。


 このまま移住しない方がいいのかなとも思うが、

 今の状況では、餓死する人が出かねないような気もする。



(どうしたもんかな……)



 アリスがそんなことを考えながら歩いていた――そのとき。


 後ろから誰かが歩いてくる気配がした。



「……あのう」



 遠慮がちな声が聞こえてくる。

 アリスが振り返ると、そこには村長の娘ロッテが緊張した様子で立っていた。







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