05.テオドール、アリスにドヤ顔をされる(2/2)
アリスは鞄を下にそっと置いた。
取っ手の金属部分を触り、ゆっくりと魔力を流す。
鞄がぼんやりと光を放ち始めた。
周囲がうっすらと金色になる。
そして――
ふわり
鞄がゆっくりと宙に浮きあがった。
「……っ!」
テオドールは思わず息を呑んだ。
目の前に浮かぶ鞄を信じられない気持ちで見つめる。
鞄は地上から1mほどの高さまでゆっくりと上がった。
そのまま、ふよふよと浮かぶ。
テオドールは、思わず声を上げた。
「これ、まさか飛んでいるんですか!?」
「正確に言うと、飛ぶじゃないかな、魔力で床みたいなものを作った感じだね。もともとあった重力に反発する力をいじって、反発する力を1つにまとめた感じだね」
得意げに説明するアリスに、テオドールは思わず苦笑いした。
どう見ても世の中がひっくり返りそうな代物だが、本人はあまり意識していないらしい。
呆れたような顔をする彼を他所に、アリスは浮かんでいる鞄を少し下げた。
その上によいしょと座ると、魔力を流して、ふわりと鞄を浮かせる。
そして、一瞬バランスを崩して落ちそうになるものの、
何とか持ちこたえると、満面の笑みを浮かべた。
「どう? これで浮いて行けば、もう転ばない!」
「え?」
「わたし、気が付いたんだよ。森で転ぶ原因は、歩いてるからだって!」
どうやら、森で転ばない方法を考えた結果、
“魔法で浮く”に行きついたらしい。
「……なるほど、そうきましたか」
ドヤ顔でふよふよと浮かぶアリスをながめながら、テオドールは苦笑した。
確かに浮けば転ぶことはないだろうと思う反面、
そう上手くいくだろうか、と思う。
しばらく考えた後、彼は尋ねた。
「魔力消費の方は大丈夫なんですか?」
「うん、1回浮いてしまえば、ほとんど消費しない感じだね」
「移動するときはどうするんですか?」
「歩くくらいの早さなら、魔力制御でできる感じ」
「……なるほど」
テオドールが考え込むように腕を組んだ。
しばらく考えた後、控えめに口を開く。
「素晴らしいとは思うんですけど、これ、結構疲れるんじゃないでしょうか」
「疲れる?」
「はい、動くものの上にずっと座るのって、結構大変ですよ」
アリスは首をかしげながら、鞄から降りた。
「そうかな? 歩くよりはマシだと思うけど」
「…………」
テオドールは黙り込んだ。
たぶん、アリスは馬に乗ったことがないのだろうと思う。
そんな彼を尻目に、アリスは得意満面でテオドールが提げていたお弁当を鞄に詰めた。
魔力を込めて鞄を、ふわり、と浮かせると、その上に座る。
「じゃあ、行こう!」
テオドールは、ふよふよと浮かぶドヤ顔のアリスを見つめた。
何となく上手くいかないような気がする。
(……まあ、でも、やってみることは大切か)
いざとなれば、自分が何とかしようと覚悟を決めながら、彼は微笑んだ。
「はい、行きましょう」
2人は城門をくぐると、森の中を進み始めた。
テオドールの横で、アリスは鞄の上に座りながら、足をプラプラさせた。
楽しそうだなと思いながら、テオドールが古城周辺の地図を取り出す。
「リットさんによると、古城の裏側を進むと旧街道に出るそうです」
「旧街道?」
「はい、この街が健在だったころの街道だったと思われる道だそうです」
数百年前の道なので、原型は残っていないだろうが、
少しだけ歩きやすいかもしれない、ということらしい。
「街道は人が踏み固めているので、木が生えにくいそうで、空間くらいは開いているかもしれない、という話でした」
「そうなんだね」
2人はそのまま森を進んだ。
所々にある遺跡を見て、アリスが口を開いた。
「やっぱり多いね、遺跡」
「開拓する時に結構大変らしいですよ。どかすのも一苦労ですから」
そんな話をしていると、前方に赤い布が巻かれた木が見えてきた。
結界の境界線だ。
その先は、雰囲気が明らかに違う暗い森が広がっている。
テオドールが軽く剣に手を掛けると、息をついた。
明るく言う。
「では、行きましょうか」
「うん」
アリスも少し緊張したようにうなずく。
2人は用心しながら、結界を出ると、暗い森へと進んでいった。




