04.テオドール、アリスにドヤ顔をされる(1/2)
カスレ村に向かう、当日。
まだ暗い早朝。
旅の服装をしたテオドールが、1人朝靄に包まれた城門の前にいた。
背中に荷物を背負い、手には食堂で渡された昼食を提げている。
まだ星の瞬いている空を見上げながら、彼は口角を上げた。
(遠出日和だな)
実を言うと、彼はカスレ村行きを心待ちにしていた。
理由は、アリスと終日一緒にいられるからだ。
(最近、ゆっくり話をする時間がなかったからな)
テオドールの生活は、基本的に早寝早起きで、仕事はほとんど外でしている。
一方のアリスは、遅寝遅起き、ほとんどの時間を地下の隠し部屋か研究室に引きこもっている。
生活時間帯が違うため、同じ部屋で寝起きしているにも関わらず、あまり会うことがない。
テオドールの方からこまめに研究室に会いに行ったりしているものの、
それでも時間は限られている。
故に、魔の森を突っ切るという危険なミッション付きであるものの、
テオドールは密かに今回の遠出を楽しみにしていた。
加えて、彼は腕試しがしたいと思っていた。
古城に来てから、オーウェンやエマ、フレッドなど、手練れの騎士と毎日のように手合わせをしている。
魔獣も多く倒しており、確実に強くなっていると感じている。
今回の遠征は、良い腕試しになるだろうし、
アリスが危なくなっても、難なく対処できるようになっているに違いない。
そんな訳で、少し浮かれた気持ちで待っているわけだが……
「……遅いな、アリスさん」
準備があると言って、ずいぶん先に出たはずのアリスが、なかなか来ない。
待っているうちに、周囲がどんどん明るくなってくる。
「……もしかして、研究に没頭して行くことを忘れているんじゃないか……?」
普通の人間ならありえないことだが、アリスだったら十分にありえる。
「これは探しに行った方がいいかもしれない」、と真剣に考え始めた――そのとき。
「……テオドール!」
後ろからアリスの声が聞こえてきた。
パタパタという足音が聞こえてくる。
(……良かった)
ホッとしながら振り返ると、アリスが走ってくるのが見えた。
小さなリュックサックを背負い、手には大きな四角い鞄を提げている。
(なんだあれは……?)
テオドールは首をかしげた。
見たことがない上に、やたらと大きい。
(まさかあれを持っていく気か……?)
そんなことを考えるテオドールに、アリスが歩み寄った。
横に鞄をトスッと降ろすと、彼を見上げる。
「お待たせ」
まっすぐに見上げる青い瞳にやや照れながら、テオドールが微笑んだ。
「いえ、大丈夫です。今来たところです。……ところで、その鞄で行くんですか?」
「うん」
アリスは嬉しそうにうなずいた。
しゃがみ込むと、鞄の留め金を外し、カパッと中を開ける。
中は銀青色の金属製で、朝の光を浴びて静かに光っている。
テオドールが、思わず目を見開いた。
「これ、前に俺が持って行った鞄ですよね」
「うん。革職人が革張りにしてくれた」
テオドールが小さく眉を寄せた。
この鞄は、男性2人がかりで何とか持ち上がるくらいの重さで、
テオドールですら身体強化魔法なしでは運べなかった。
なぜアリスが軽々と持ち運べたのだろうか。
「……この鞄、確かものすごく重かったですよね」
「うん、実は調べたら面白い魔法陣が付いててさ」
彼女は鞄を閉じると留め金を掛けた。
鞄に触れながら軽く魔力を流す。
そして、取っ手に手をかけると、軽々と持ち上げた。
「ね? この通り、魔法を通すと、ものすごく軽くなるんだ!」
テオドールが目を丸くした。
これは便利だ。
「すごいですね、重量制限はないんですか?」
「うん、ない。そういう原理じゃないから」
そして、彼女はニヤリと笑った。
「でも、本番はここからだよ」
「本番?」
「うん、見てて」
アリスは鞄を下にそっと置いた。
取っ手の金属部分を触り、ゆっくりと魔力を流す。
鞄がぼんやりと光を放ち始めた。
周囲がうっすらと金色になる。
そして――
ふわり
鞄がゆっくりと宙に浮きあがった。
「……っ!」
テオドールは思わず息を呑んだ。
目の前に浮かぶ鞄を信じられない気持ちで見つめる。
鞄は地上から1mほどの高さまでゆっくりと上がった。
そのまま、ふよふよと浮かぶ。
テオドールは、思わず声を上げた。
「これ、まさか飛んでいるんですか!?」
(つづく)




