【一方その頃】 思惑(2/2)
本日3話目、1/2からの続きです。
王宮内にある魔法研究所の所長室にて。
ファーガソン公爵家のジャネットが、尊大な表情で椅子に座っていた。
本棚に並ぶ貴重そうな本をながめ、満足そうな笑みを浮かべる。
(やっとこの椅子に座れたわね)
脳裏に浮かぶのは、所長になるまでの道のりだ。
*
ジャネットはファーガソン家の娘だ。
幼い頃に高い魔力があると分かり、ずっと魔法を学んできた。
特に攻撃魔法が得意で、入学した学園では彼女の右に出る者はいなかった。
自分より弱い生徒たちを叩きのめしながら、彼女は思った。
(私は選ばれた人間なのだわ!)
そんな彼女に、父であるファーガソン公爵から命令が下った。
「学園卒業後は、魔法研究所に入るように」
ファーガソン家の悲願は、大陸統一だ。
強大な攻撃魔法を使える魔法士も必要だが、更に重要なのが魔法兵器の開発だ。
「お前には、魔法兵器の開発を任せたい。魔法研究所で上り詰めて所長になるんだ」
「はい、お父様」
そんな訳で、ジャネットは魔法研究所に入所した。
突然現れた超上流貴族に、研究所の研究者たちはとても驚いた。
ぺこぺこと挨拶をする。
そんな彼らを、ジャネットは心の中で蔑んだ。
(そんなことよりも早く成果を上げなければ)
研究所は、基本的に実力主義と決められている。
さすがに公爵家の令嬢とはいえ、何もやらずに所長にはなれない。
事前調査によると、新しい魔法を開発するのが一番の成果とされるようだった。
(やはり軍事系の魔法ね)
そんな彼女が目を付けたのは、無理矢理教育係に据えたビクター所長だった。
事前調査によると、彼は『広範囲結界魔法』を研究中で、徐々に成果を出しているらしい。
(実力はそれなりのようね)
たかが下級貴族の息子であることは気に入らないが、踏み台にはちょうど良い。
その日から、彼女はビクターを呼びつけるようになった。
必要知識を吸収したり、開発を手伝わさせるなど、便利に使い始める。
(このままこの男を利用していれば、すぐに所長になれるわね)
そんなある日。
ジャネットは、ビクターと廊下を歩いていた。
出会った研究員たちが、ぺこぺこしながら道を譲る。
しばらくすると、廊下の向こうから1人の娘が歩いて来るのが見えた。
少しボーッとした雰囲気の小柄な娘だ。
彼女を見て、ビクターが破顔した。
「アリス!」
(アリス……?)
ジャネットは記憶を探った。
彼の養女アリスだと思い当る。
調査書によると、学園を試験のみで卒業し、最年少で魔法研究所に入った天才、という話だった。
ジャネットはその記憶を鼻で笑った。
(孤児ごときが天才などありえない)
どうせ学園も魔法研究所もビクターのコネだろう。
そんなことを考えるジャネットに、アリスはぺこりと頭を下げた。
「こんにちは、はじめまして。アリスです」
「ジャネット・ファーガソンよ」
ジャネットが鷹揚に名乗る。
彼女の予想では、ファーガソンの名前を聞いたアリスが、ぺこぺこと媚びへつらい始めるはずだった。
しかし、アリスは特に何も反応しなかった。
何とも思っていなさそうな顔で、2人に向かって「研究がありますので、失礼します」と軽く頭を下げて、足早に去って行く。
ジャネットは腹が煮えくり返った。
(許せない! 孤児のくせに、この私を見下して!)
自分が所長になったらすぐに追い出してやる、と心に決める。
――しかし、肝心のジャネットの新魔法開発は難航した。
ビクターをもってしても、斬新で新しい攻撃魔法の開発には至らなかったからだ。
(使えないわね!)
そのクセ、ビクター自身の『広範囲結界魔法』の研究は成功をおさめ始めていた。
成功したという話が聞こえ始める。
(ちょうどいいわ、その研究を私がもらえばいいのよ)
もっと完全に成功してから奪おう。
そう思って待っていたところ、ビクターが突然亡くなった。
(どうしてくれるのよ! これじゃあ所長になれないじゃない!)
そう思っていた矢先、『広範囲結界魔法』の論文が発表された。
作者名は、ビクター。
ほとんど完成していたものを、助手を務めていた孤児のアリスが仕上げたらしい。
(ちょうどいいわ、いただきましょう)
論文を読んだ限り、実証実験まで済んでいる。
アリスを研究所から追い出して、手柄を完全に自分のものにしよう。
(ちょうどいいわね、元孤児の腰ぎんちゃくなんて、この研究所に必要ないもの)
ジャネットは、王家を巻き込んで動き始めた。
父と叔母である王妃に相談し、アリスを魔法研究所から追い出すことにする。
*
ジャネットは所長室の椅子に寄りかかると、周囲を見回した。
満足そうにため息をつく。
「やっぱり身分違いの者がいなくなると、空気がいいわね」
そうつぶやくと、彼女は目の前の『広範囲結界魔法』の論文を手に取った。
傲慢そうに微笑む。
「では、国王陛下の命令通り、まずはこれの実装化を始めましょうか」
忍び寄る、ざまあの影……
本日はここまでです。
また明日投稿します。
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