03.アリス、謎の物体を入手する
オーウェンが口を開いた。
「では、行こうか」
その声を合図に、5人は城門をくぐって外に出た。
城門のすぐ先は鬱蒼とした森で、木々が生い茂っている。
警戒しながら森に入ると、中は薄暗く、空気は湿気を帯びていた。
草木が生い茂っており、土と緑が混じったような匂いがする。
(魔の森の魔力って、独特な感じだよね)
わくわくしながら歩くアリスの後ろで、リットが興味深そうに口を開いた。
「結構、遺跡らしきものが目立ちますね」
彼女が指差したのは、白い壁や地面に埋もれた石だ。
崩れたりして原型をとどめていないものが多いが、どう見ても人工物だ。
「このへん、こういうの多いわよ。集落があったんだと思うわ」
しんがりを歩きながら、エマがそう答える。
アリスも周囲を見回した。
来るときも結構あるなと思ったが、こうやって見ると本当に数が多い。
(集落どころか、割と大きな街だったのかもしれない)
アリスがキョロキョロしながら歩いていると、
「わっ!」
地面にせり出していた木の根に足が引っ掛かった。
危うく転びそうになったところを、傍にいたテオドールに支えられる。
「大丈夫ですか?」
「う、うん」
アリスが体勢を立て直しながらお礼を言った。
テオドールが腕を差し出す。
「アリスさん、危ないんでつかまってください」
「ありがとう」
アリスはテオドールの腕につかまった。
同じ人間とは思えないほどしっかりしている。
「テオドールの腕って固いね」
「…………ええ、まあ、騎士ですから」
テオドールが顔を隠すように横を向きながら、ボソッと言う。
――そして、慎重に進むこと、15分。
オーウェンが立ち止まった。
警戒の色を浮かべながら、一行を振り返る。
「前方から強力な魔獣の気配がする」
アリスは前方をじっと見つめた。
魔獣の気配はよく分からないが、結界の際はまだ先の気がする。
「結界続いているんで、もっと先まで大丈夫だと思います」
相談の末、ここからはアリスが先頭を行くことになった。
テオドールにつかまって進み始める。
進むにつれて、テオドールの緊張が高まり始めた。
どうやら魔獣の気配が強くなっているらしい。
「アリスさん、本当に大丈夫ですか」
「うん、大丈夫」
アリスはうなずいた。
魔獣の気配が分からないのも、たまには良いことあるな、と思う。
そして、歩くことしばし。
アリスは前方に暗い影が広がっているのを感じた。
魔力の淀みを感じると同時に、獰猛そうな魔獣のうなり声が聞こえてくる。
彼女は立ち止まると、少し先を指差した。
「たぶん、あのあたりが境界だと思います」
念のためということで、アリスは探知魔法を使って正確な位置を把握することにした。
アリスはポケットから用意していた魔法陣の描いてある魔法紙を取り出すと、
魔力を流し込むと、静かに詠唱する。
【起動・魔力:魔法陣】
魔法陣の上部に黄金の光が渦を巻く。
アリスは、その渦を包み込むように、手を強く叩いた。
パンッ!
手を打つ乾いた音と共に、ビーンと魔力の波が周囲に散っていく。
リットが興味深そうな顔で尋ねた。
「それは何の魔法ですか?」
「周囲に魔力を飛ばして、魔法的なものの有無を調べるものです」
そう答えながら、アリスは首をかしげた。
結界の境界と共に、地面の下から感じたことのないような微弱な反応を感じる。
(なんだろう……?)
アリスはとりあえず結界の境目を指さした。
「あの横に並んで生えている木がちょうど境目です。あとあの赤い実の木あたり」
「よし、印をつけるか」
オーウェンとエマが、少し手前の木の枝に赤いリボンを結び付け始めた。
リットがノートに何かを熱心に書き込む。
その間に、アリスは反応のあった地面の上に立った。
落ちていた枝を拾うと、ザクザクと彫り始める。
テオドールが不思議そうな顔をした。
「何をしているんですか?」
「なんか埋まってる気がする」
「ちょっとどいてください。俺、掘ってみます」
テオドールが持ってきたスコップで、地面をどんどん掘り始めた。
あっという間に1mほど掘り、身を屈める。
「こんなものが埋まっていました」
渡されたものを見て、アリスは首をかしげた。
(……ボール?)
それは、直径3センチほどの、ずっしりと重い金属球だった。
色は黒で、不思議な光を放っている。
(なんだろ、これ?)
試しに軽く魔力を流してみて、アリスは目を見開いた。
(これ、ミスリルだ!)
アリスの胸は高鳴った。
ミスリルは唯一魔力を通す非常に高価な金属だ。
使われるとすれば、魔剣や魔法陣の土台など、魔法に関するものである可能性が高い。
(きたこれ!)
アリスはワクワクしながら、球を食い入るように見た。
角度を変えたりひっくり返したりしていると、リットたちが戻ってきた。
どうやら作業が終わったらしい。
リットが物珍しそうにアリスの手元を覗き込んだ。
「この球、なんですか?」
「魔力探知で見つけたやつ」
「もしかして、魔法的な何かですか?」
「たぶんそうだと思う」
リットと話しながら、アリスは思案に暮れた。
これが何なのか、全く想像がつかない
考え込むアリスに、テオドールが声を掛けた。
「アリスさん、とりあえず先に探索をしてしまいましょう」
「……うん」
アリスは渋々球をポケットに入れた。
今すぐ調べにかかりたいところだが、帰ってからじっくり分析しようと思う。
その後も5人は探索を続けた。
アリスが魔力探知で結界の境界を探り、オーウェンとエマがその部分に赤いリボンを結び付けていく。
魔力探知を使うたびに、アリスは地面の下から反応を感じた。
テオドールに手伝ってもらって地面を掘り起こし、前と全く同じ丸い球を2つ見つける。
「またあった!」
アリスは興奮すると共に首をかしげた。
一体これは何だろうか。
休憩時間中、見つけた3つの玉をながめながら、
手に持ったパンを食べるのも忘れて考え込む。
*
――――そして、古城を出発してから、約半日後。
アリスは前方が明るくなってきたことに気が付いた。
今までに感じたことのない不思議な魔力が漂ってくる。
(なんだろう?)
慎重に歩き続けると、木々が途切れてきた。
明るさがどんどん増してくる。
そして、視界が一気に開け、そこには鏡のように静まり返った湖が広がっていた。




