【一方その頃】 思惑(1/2)
本日2話目です
アリスが王宮を出発した、その日の昼過ぎ。
王宮の離れにある豪華絢爛のティールームで、王妃がお茶を飲んでいた。
窓からは、12,3歳くらいの少年が剣の稽古をしているのが見える。
彼は、セドリック第1王子。
王妃の最愛の息子だ。
(国王に相応しい風格が出て来たわね)
王妃が満足げな顔で少年をながめていると、1人の黒い執事服の男がやってきた。
彼は丁寧にお辞儀をすると、王妃に囁いた。
「ジャネット様が、魔法研究所の所長に就任されることが決まったそうです」
「そう。それは良かったわ。上手くやれそう?」
「はい、問題なさそうです」
王妃は満足げに笑った。
「あの子には、この国のため、ファーガソン公爵家のために、がんばってもらわないとね」
「ごもっともです。――それと、例の魔法研究者ですが、今朝王都の街を出ました。魔法士たちによると、まっすぐヴェルモア領を目指しているそうです」
「それは良かったわ」
王妃がにっこり笑った。
「単なるビクターの腰ぎんちゃくだったとはいえ、生きていてもらっては困るものね」
「国防の観点から見れば、当然のお考えかと」
男が恭しく頭を下げる。
「大規模結界魔法があれば、我が国の力は格段に上がるでしょうね」
「ええ、間違いありません」
王妃は満足そうに微笑むと、男に手で下がるように合図をした。
再び窓の外に目をやると、自分の息子を嬉しそうにながめる。
彼女の出身であるファーガソン公爵家は、軍事貴族だ。
今後は、公爵家を中心として大陸統一を進め、最終的にはセドリックを大陸の王にするのだ。
そのために必要な魔法研究所の掌握は、今回のことでずいぶんと進んだ。
あともう少しだ。
彼女はしばらく息子をながめた後立ち上がった。
メイドたちを引きつれてティールームを出る。
彼女の頭の中からは、自分が辺境においやった魔法研究者のことなど、すっかり消え去っていた。
――そして、これとちょうど同じ頃。
魔法研究所にある所長室で、ファーガソン公爵家のジャネットが、満足そうな顔で所長の椅子に座っていた。
(2につづく)
もう1話投稿します




