08.アリス、ふわっと説明する
結界を修復したアリスたちが地下を出ると、外はちょっとした騒ぎになっていた。
魔力がある程度以上ある者は、魔法陣が修復された際の波動を感じたらしい。
「急に、ぶわっと何かが横切った気がする!」
「なんかすごかった!」
口々にそんなことを言い合っている。
*
そして、とっぷりと日も暮れた、その日の夜。
オレンジ色のランプの光に照らされた一室で、会議が行われた。
メンバーは、アリスとテオドールの他、結界のことを知っているビクトリア、オーウェン、フレッド、エマの4人だ。
まず、ビクトリアが深々と頭を下げた。
「アリスさん、まずはお礼を言わせてください。危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます」
オーウェンやエマ、フレッドも頭を下げる。
「いえいえ、そんな。わたしも楽しかったです」
アリスが満面の笑みを浮かべた。
色々あったが、未知の魔法陣を分析できて、とても楽しかった。
その後、アリスは魔法陣の状況について説明し始めた。
「あの後色々調べましたが、結界は問題なく修復できました。しばらく見守る必要はありますが、たぶんしばらくは大丈夫だと思います」
「そうですか……」
ビクトリアと他3人が、ホッとしたような顔をする。
「ちなみに、結界の効力ですが、”害意を持つ人間以外の生物と攻撃を弾く”というものでした」
フレッドが意外そうな顔をした。
「それって、害意がある人間は入れるってことか?」
「はい、入れます。あくまで魔獣を防ぐものだったと思われます。」
そして、アリスが思い出したように言った。
「それと、1つ朗報があります」
「朗報?」
5人が不思議そうな顔をする。
アリスが笑顔で言った。
「実は、結界の範囲がかなり広くなったことが分かったんです!」
「え……?」
ビクトリアが目を瞬かせた。
「ええっと、広くなった、とは……?」
「はい、結界で守られる範囲が広がった、ということです」
これは魔法陣を修復したときに分かったことなのだが、
結界は、もともと今よりずっと大きかったらしい。
年月を経て小さくなっていたが、修復されて元の大きさに戻った格好だ。
エマが尋ねた。
「広がった……って、どのくらい広がったの?」
「そうですね……」
アリスが腕を組んで考え込んだ。
「まあ、あの魔力の感じからすると、少なくとも10倍以上にはなったと思います」
「は!? 10倍!?」
フレッドが、思わずといった風にガタンと立ち上がった。
その場の全員が、目を見開いて固まる。
アリスがコクリとうなずいた。
「はい、もともと、それくらいの大きさだったのだと思います。なので、元に戻った、という言い方が正しいのかもしれません」
「そうですか……それにしても、10倍……ですか」
ビクトリアが肝を潰したようにつぶやく。
「……ちなみに、この結界は、どのくらいの期間もつのでしょうか」
アリスが思案した。
「そうですね……とりあえず、3カ月監視して、それで何もなければ、あと100年くらいはもつと思います」
「え、100年?」
「はい、そういう風に作られているので」
場がシンと静まり返った。
『10倍に広がった結界が100年は保たれる』
という予想外過ぎる話に、全員が彫像のように固まっている。
(……まあ、驚くよねえ)
アリスは、うんうん、とうなずいた。
これだけ広範囲をカバーできることもびっくりだが、
100年も魔力供給なしで動く魔法陣なんて、今までの魔法の常識からは考えられない代物だ。
(これに比べたら、わたしが作った『広範囲結界魔法』なんて、おもちゃみたいなもんだよね)
今は亡き義父ビクターの顔を思い出し、見せたかったなあ、と思う。
*
その後、ようやくアリス以外5人が正気に戻り、今後についての話し合いを始めた。
アリスは、これから3カ月間結界を監視することになり、
他の人々は森に入って、結界が広がった影響を調べることになる。
「もしも大丈夫なら、子どもたちを外で遊ばせられるかもしれないな」
「そうなったらいいわね!」
そんな話で盛り上がる。
そして、話し合いが終わり、
アリスが「じゃあ、わたしは魔法陣の監視へ」と席を立とうとした、そのとき。
「――アリスさん」
ビクトリアが、改まったように口を開いた。
その澄んだ瞳をアリスに向ける。
「お話があるのですが、よろしいでしょうか」
お読みいただきありがとうございました!
ちなみに、昨日は予約投稿をミスして1日スキップしてしまいました……。




